第20話 エピローグ

 あれから1年の月日が経った。

 今日は、ソーウェル様との結婚式だ。


 あの後、それはたくさんの人に反対された。身分が違いすぎる、私じゃ釣り合わない、と。その反対意見をどうやって言いくるめたかと言うと、簡単に言えば王太子殿下と団長だった。

 私じゃ釣り合わないという反対意見に、王太子殿下がこうおっしゃったのだ。


「フォルトン嬢は私の生誕パーティーで企てられた暗殺計画を阻止し、リドリンド家に盗まれた私のペンを取り返してくれた。また、ソールディ家の虚偽報告並びに視察団への賄賂を発見し、その証拠を掴んだのもフォルトン嬢だ。少なくとも、あなた方より私と王家、そして国への功績は大きいぞ」


 ちょっと買いかぶりすぎだが、この王太子殿下の鶴の一声に皆黙るしかなかった。いや、全部たまたまなんですけどね?というか、いつも私に威圧的だったから、お付き合いと結婚を認めてくれないと思っていたんだけど…。すぐ認めてくれた。やっぱりソーウェル様が大好きなんだね。


 次に身分が違いすぎるという反対意見。これは、団長が解決してくださった。なんと、私を団長、つまりリゾウ辺境伯様の養女にしてくださったのだ。


「シアはわしの大事な子じゃ。言ったじゃろ?宮廷音楽師はわしの子も同然と。そんな大事な子が困っておったら助けるに決まっている。歳的に言ったら娘というより孫に近いがな」


 と。辺境伯という身分は、この国では伯爵よりも上で下手したら公爵と同じくらいだ。これにより、身分の問題は解決した。

 団長の養女になることには家族に申し訳ないと思ったが、父も母も兄も「家族なことに変わりはないんだから」と言って笑っていたなぁ。

 そんなこんなで私は今シア・フォルトンではなくシア・リゾウだ。今日からシア・マビウッドになるけど。


 そうそう、ソーウェル様の母君のマビウッド公爵夫人と、父君のマビウッド公爵様はそれはそれはとても喜んですぐに認めてくれた。これも絶対反対されるんだろうなぁと思っていたから驚いた。どうやら、私の両親と同じく、ソーウェル様には恋愛結婚してほしいと思っていたらしい。なるほど、だからソーウェル様に長らく婚約者がいなかったのか。

 今、公爵様と公爵夫人は私にとてもよくしてくださっている。ありがたい…。


「あやつがやっと自分から見つけた子だ。大事にしなくては!」


「可愛い~。あの子、こんな良い子をよく見つけてきたわね。よくやったわ」


 らしい。ちょっと買いかぶりすぎな気もするけど、まぁいいか。


 リーシラ様はそれはそれはとても喜んでくださった。付き合った次の日に報告をすると、まるで自分のことのように喜んでくださったなぁ。その後も何かと気にかけてくださった。ソーウェル様によると、令嬢や侍女を言いくるめたのはリーシラ様らしい。申し訳ない…でも、ありがとうございます。


 ミニアとウィストさんもすごく喜んでくれた。ウィストさんにはやっとか…みたいな顔されたけど。ミニアとはそれから恋バナ?なのかな?そういうことをよく話すようになった。あれはあれで楽しかった。ちなみにミニアは平民だが、今回の式に呼んでもらっている。


 最後に、第3王女付き宮廷音楽師について言っておこう。結論から言うと、辞めさせてもらった。将来公爵夫人になるのにいつまでもお城で使用人のように働くのは体裁的に良くないということだ。ただ、リーシラ様への演奏がなくなったわけではない。これからは、リーシラ様の友人として王宮に行き、演奏をするという形になった。つまり、最終的に何が変化したのかというと、お給金が出なくなったということだ。


「準備ができたようです。参りましょう」


 私が控えている部屋に侍女が入ってそう言う。ついに、結婚するんだなぁ。

 立ち上がり、侍女についていく。


 私が身にまとっているのは、シンプルだがとても上品なウェディングドレスだ。髪には、瞳と同じ色の髪飾りがついている。指には、ソーウェル様がくださった結婚指輪。首にはソーウェル様の瞳と同じ色の紫の小さな飾りがついたネックレス。


「ふふ」


 結婚指輪をみて、思わず笑みがこぼれる。プロポーズの言葉は今でも覚えている。


「シア、私と結婚してください。必ず幸せにします」


 とてもシンプルでソーウェル様の気持ちが直に伝わって来たなぁ。


「こちらでお待ちください」


「ありがとう」


 ひとつの大きな扉の前に立つ。いよいよかぁ。高鳴る鼓動を落ち着かせるために、深呼吸をする。よし、大丈夫。ここまできたら後はノリと勢いだ。


「シア」


「ソーウェル様」


「とても綺麗だね」


「ありがとうございます」


 ソーウェル様も到着し、私の横に並ぶ。


「いよいよだね。ここまで長かった」


「1年は早い方だと思いますよ?」


「シアは1年だけど、私は2年だから」


「ふふ、そうでしたね」


 そういえば、ソーウェル様が私に一目ぼれをしたのは2年前だったなぁ。


「最近、よく笑うようになったね」


「そうですね。ソーウェル様のおかげです。ありがとうございます」


「それならよかった」


 そう言って、ソーウェル様はいつも通りの優しい笑顔を浮かべる。やっぱり素敵だなぁ、その笑顔。


 扉がゆっくりと開かれる。ソーウェル様は腕を差し出し、私はそれに手を置く。そして、ゆっくりと歩いて式場の中に入ったのだった。


「おめでとう、シア。これからもピアノを弾いてね?」


「シア!おめでとう!」


「やっとか…おめでとう」


「おめでとうシア。恋愛結婚はいいものね。ね?あなた」


「うむ、そうだな。シア、おめでとう」


「おめでとう。まさか僕より早く結婚するなんてなぁ」


「めでたいのう。な?王太子殿下」


「そうだな…おめでとうソーウェル…とシア」



「ありがとうございます。…私はとても幸せです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「銀のピアノ姫」恋を知る 春夜もこ @kaym_115

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ