第12話 安心
お城に無事に着いた私はソーウェル様によってすぐに医務室に連れて行かされ、怪我の治療が行われた。手の傷は4日5日くらいで完治するらしい。よかった。
殴られた頬は少しだけ赤くなっていたので、念のために冷やしている。
「シア。怪我はどう?」
治療が終わり、疲れているだろうからとの医務官のご厚意で医務室のベッドで休んでいると、ソーウェル様が部屋に入ってきた。
「大丈夫ですよ。すぐ治るそうです」
刃物で切られたわけじゃないしね。派手に擦りむいただけだ。
「それならよかった。もうすぐ、リーシラ王女殿下が来るそうだよ」
「え、そうなんですか。申し訳ない…」
ただの一使用人のお見舞いに来てくださるなんて恐れ多い…。
「リーシラ王女殿下、かなり心配されていたからね。まぁこう言ったらまたシアは申し訳ないとか思うんだろうけど」
「よくわかりましたね。今すごく申し訳ないと思ってました」
「やっぱりね」
そう言ってソーウェル様はクスっと笑う。あ、いい笑顔。
その時、コンコンと扉がノックされて、リーシラ様が入ってきた。
「シア、大丈夫?」
「リーシラ様。私は大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」
私の近くに来たリーシラ様は涙目だった。そんなに心配してくださったんですか…。
ソーウェル様が準備した椅子にリーシラ様が座る。
「本当にシアが無事で本当によかったわ…。怪我はどう?」
「手の怪我は4日くらいで治るそうです」
「そう…。それならとりあえず1週間の休みを出すわね。しっかり休んで?もっと休みたかったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます」
1週間も休みをくださるとは…申し訳ない…。早く怪我を治して1週間後からしっかりお勤めしないと。
「それじゃあ、私は母上様に呼ばれているから行くわね。本当に無事で良った…ゆっくり休んでね」
「はい」
そう言ってリーシラ様は部屋を出ていかれた。
お忙しいときに来てくださったのか…。申し訳ない。
「私もそろそろ失礼するよ。ゆっくり休んでね」
「はい。ありがとうございました」
ソーウェル様も部屋を出ていく。
私ももう少しここで休んだら練習室に戻ろうかなぁ。ピアノは弾けなくても作曲はできるよね。怪我したの利き手じゃないし。
しばらく横になっていると、コンココンと扉がノックされた。この叩き方はミニアかな。まさか医務室でもこの叩き方してくるとは思わなかった。
「シア!大丈夫!?」
扉が開き、予想通りミニアが入ってくる。その後ろからウィストさんも入ってきた。
「ミニア、落ち着いて。ウィストさんも来てくれたんですね」
「シアは大切な後輩だからな。怪我はどうだ?」
「怪我はすぐ治るそうですよ。あ、リーシラ様から1週間お休みをもらいました」
「そうか、それならよかった。1週間、ゆっくり休めよ」
やたらゆっくりを強調された気がするんだけど。まぁいいか。
「シア、よかった無事で…!もう本当心臓止まるかと思ったんだからね!?」
ミニアが私に抱き着きながらそう言う。私はミニアの背中を軽く叩いて引き離した。
「ごめんね。私は大丈夫。ノリと勢いで逃げ切ったから」
「よくそれで逃げれたな…」
ミニアの後ろでウィストさんが遠い目をしながら呟いた。
「でも危なかったんですよ?塀に罠が仕掛けられていたり…」
その後私は脱出をした状況のことを2人に話した。
「貴族街って迷路だったんだなと思いました」
「そ、そうか」
話し終わると、ウィストさんは若干顔を青くしていて、ミニアは涙を目いっぱいにためていた。あれ、泣くところあったっけ。
「ミニア、なんで泣いているの」
「その時のシアの気持ちを考えたら涙がでてきちゃって…!怖かったよねぇ…」
怖かった、怖かったかぁ。とにかく逃げないとって思っていたからそんなこと感じていなかったけど、今思うと確かに怖かったなぁ。
「確かに怖かったけど、今こうしてミニアとウィストさんと無事に会えたからもう大丈夫。終わりよければすべてよし、だよ。過去のことは気にしない気にしない」
「それでこそシアらしいな。ただ、無理はするなよ。怖くなったらいつでも共同部屋においで。俺もミニアもいるから」
「うんうん!いつでもおいで!私もシアの練習室に行くね!」
「う、うん。ありがとう。待ってる」
ミニア、ちょっとだけ元気になってくれた、かな?いろんな人に心配かけてしまったなぁ。あ、心配かけたといえば、団長…。
「団長ってどこにいるかわかりますか?」
元はといえば団長の言うことを断って結局連れ去られてしまったんだから、団長に謝りにいかないと。
「団長なら団長室じゃないかな?」
「ありがとうございます。ちょっと団長室に行ってきます」
「それなら俺とミニアも近くまで一緒に行こう」
ウィストさんがミニアを見ると、ミニアは元気よく首を縦に振った。
「ありがとうございます」
医務官に戻ることを伝え、3人で医務室を出る。団長室まで何気ない会話をしながら歩く。
あ、歩くと転んだ時に擦りむいた傷がちょっと痛む…。そのためゆっくり歩くようにすると、2人は歩くスピードを私に合わせてくれた。
「ありがとうございます、ウィストさん、ミニア」
団長室に着き、ここまで一緒に来てくれた2人にお礼を言う。ここまで来るとき、他の人たちにひそひそ言われていたけど、2人のおかげで全く気にならなかった。
「いいってことよ」
「何かあったらいつでも来てね!」
そう言って2人は共同部屋の方に歩いて行った。
「よし」
一呼吸置いて、団長室の扉をノックする。なかから許可の返事が聞こえたので、扉を開けて、そっと入った。
「団長、シアです」
私が声をかけると、団長は目を見開き、すぐに立って私の方に来てくださった。
「シア!無事だったか…怪我はどうだ?」
「怪我はすぐに治るそうなので大丈夫です」
「そうか。それならよかった」
そう言って団長は胸をなでおろす。心配をかけてしまったなぁ。
「此度の件、もうしわけありませんでした。あの時団長の言うことをしっかり聞いて大広間に残っていたら、このようなことには…」
「いいんじゃよ。気にしなくて。もうすこし強く言わなかったわしも悪いからな」
「いえ、団長のせいでは…」
団長の言うことを断ったのは私だから悪いのは私だ。団長は全く悪くない。
「じゃあ、2人とも悪かった、ということにしようかのう」
「団長…」
「宮廷音楽師はわしの子も同然。しばらくゆっくり休みなさい」
「はい。ありがとうございます。失礼します」
お礼を言い、団長室を出る。たくさんの人に迷惑をかけてしまったなぁ。申し訳ない…。
とにかくこの1週間で怪我をしっかり治そう。それが一番だよね。作曲はするけど。
練習室に戻った私は五線譜を出し、ペンを持つ。さて、気分転換に作曲をしよう
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