第9話 王太子生誕パーティー
今日は王太子殿下生誕パーティーである。
ちなみに私はいつも通り隅を陣取っている。今日はずっとここにいよう。
「はい、ジュース」
「ありがとうございます」
ジュースを取りに行っていた兄が戻ってくる。もうこれがこういう場のルーティンだよなぁ。
「飲み物、まだ完全に用意されていないみたいで少なったよ」
「そうなんですか。何かトラブルでもあったんですかね」
お城の侍従や侍女は一流だ。何かトラブルがない限りこういうことはないはず。
「あ、シア、ここにいたか」
「団長」
突然団長がやってきた。あれ、いつもはこういう場では話しかけてこないのに。
「どうされたんですか?」
「ちょっと裏でうちの団員と侍女がトラブルにあってな。そっちに人員割かれちまって人手が足りないんだ。せっかく着飾っているところ申し訳ないが、手伝いに行ってくれねぇか?」
そういうことなら喜んで。ちゃんとしたドレスは窮屈だったし、何よりこの場を離れられる。ラッキー。
「わかりました」
「すまねぇな。着替えたら、共同部屋に行って指示をあおいでくれ」
「はい」
返事をすると、団長は忙しそうに去って行った。そういえば団長は辺境伯でもあったなぁ。団長としての仕事と辺境伯としての仕事。そりゃ忙しい。
「ということですので、兄上」
「うん。父上と母上には伝えておくね」
「ありがとうございます」
部屋を出て、制服が置いてある練習室に向かう。
ここに来るとき、たまたま宮廷音楽師に会ったので、簡単に状況を教えてもらった。どうやら楽器を運んでいた台と飲み物を運んでいた台が思いっきりぶつかったらしい。飲み物が盛大にこぼれ、運んでいた楽器の大半にかかったそうだ。今急いで楽器のメンテナンスしているらしい。
なるほど、だから飲み物が少なかったのか。
「あの、手伝いにきました」
制服に着替え、髪形もひとつ結びに変え、共同部屋に入る。
「ああ、助かる。この楽譜を大広間に届けてくれ。そして弾いていた楽譜を持ってきて
ほしい」
「わかりました」
机の上に置いてあった楽譜を持ち、部屋を出る。パーティーで2曲目に弾く曲だ。ということは、なるべく急いだ方がいいよね。もう1曲目始まっているだろうし。
「間に合った」
急ぎ足で大広間に入ると、ちょうど1曲目が終わるころだった。1曲目が終わって間奏に入った瞬間に急いで楽譜を変える。そういえば昔お茶会で1回だけ楽譜交換やったなぁ。うまくできるだろうか。
なんとか楽譜を交換して大広間を出る。よかった、うまくいった。演奏していたウィストさんすごく驚いていたなぁ。
次はこの楽譜を共同部屋に持っていけばいいんだな。
「それにしても制服最高…」
さっきまでちゃんとしたドレスを着ていたからか、制服のありがたみがよくわかる。動きやすい。歩きやすい。
しばらく歩いていると、男の人の話し声が聞こえてきた。どうやら角を曲がったところで話しているみたい。
パーティーの真っ最中にこんな所で話し声?早く戻るために侍従たちが使う廊下とは別の廊下を使ったから、誰もいないと思ってたんだけど。まぁいいか、通ろう。
「手筈は整いました。あとは実行するだけです」
「ついにあの忌々しい王太子が死ぬか」
行こうとしてた足を止める。
え、なんて…?手筈?死ぬ?王太子殿下が?つまり、それは、暗殺…?それなら今すぐ知らせなくては。
私は来た道を戻る。なるべく早足で。ただし音は立てないように。音を立てて見つかったらそれこそ終わりだ。まぁ、あの王太子殿下のことだから何か情報は掴んでいるとは思うけど。念のためにね。
大広間に入ると、団長がすぐそこにいた。
「団長」
「シアか。どうした?」
「ちょっとすみません」
そう言って、耳を貸してほしいとジェスチャーをする。団長が身をかがめると、そっと耳打ちをした。
「王太子殿下暗殺の動きがあるようです。さっき、そのような会話を聞きました」
「なぬ…!?わかった。王太子殿下に伝えよう」
「お願いします」
よかった、団長がいて。団長なら確実に上まで伝わるだろう。さて、伝え終わったことだし、楽譜を戻しに行くか。
「では私はこれで」
「まて、今行くのは危険かもしれぬ」
「侍従たちが使っている廊下を通るので大丈夫ですよ」
さっき通ったの違う廊下だったし。一応周りに警戒しながら戻るか。
万が一私が聞いていたことに気づかれていたら何かしてくる可能性がある。
「そうか。念のため、共同部屋に戻ったらわしが戻るまで出るでない。よいな?」
「わかりました」
たぶん大丈夫だと思うけど。念のためだ、念のため。
大広間を出て、今度はちゃんと侍従たちが通る廊下を歩く。行ったり来たりする侍従と侍女の邪魔にならないようにしないと。それにしても裏側ってこんなに忙しいのかぁ。お疲れ様です。
特に何もなく歩くこと数分。ちょうど侍従たちが誰も通っていない時、恐れていたことが起きた。
「やっとひとりになったか、嬢ちゃんよぉ」
「誰ですか?」
突然現れた黒づくめの男性3人に囲まれた。いや、聞くまでもなくわかるけど。さっき話してた男性方だ。これはまずい。非常にまずい。逃げないと。でも、どうやって?さすがに3人は無理じゃない…?
「銀髪女、お前のせいで全てが水の泡だ」
ほう。ということはあの後素早く対応がなされたのか。よかった…。銀髪女ってことは、おそらく髪が見えたんだろうなぁ。
「やれ」
前に立っていた男性がそう言った途端、首に衝撃が走る。
団長、ごめんなさい…。
私は意識を手放した。
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