game7. ―1
下駄箱から文芸部室に向かう道中に、グラウンドに抜けられる渡り廊下があった。部長とちょうど出くわしたのは、そこでだった。
久々に部室に行こうとして、掃除当番だったので琴花より二十分ほど遅れて部室までの道を歩いていて、渡り廊下からグラウンドの隅の野球部が見えることを発見した。今まで外の様子なんて気にしたこともなかった。
あまりに長く立ち尽していたらしい。文芸部室のほうから歩いてきた部長は小脇にパソコンを抱えていた。いつもの『お出掛け』。会釈をして通り過ぎるものか、逡巡した私に、声を掛けたのは部長のほうからだった。
「ハルは」
ハル先輩のことになれば、部員と言葉を交わすこともできるのだ、この人は。
「部活に行ったと思います」
部長の無表情に、怪訝の色が一瞬浮かんだ。
立ち止まって話す部長と私。部員に見つかったら、どう思われるだろうかなんてはらはらする。それも束の間、部長は私から目を逸らして渡り廊下から外に出た。
部長の『お出掛け』の目的地が、どこだったかなんて知らなかった。部活時間中に図書室に行っても部長に出会ったことはなかった。この真夏の炎天下の中、部長はいつも外に出ていたのだろうか。
グラウンドの方面に向かう、部長の背中を見つめ続ける私に、部長が気づいて足を止める。
そして、言った。
「来る?」
どこへ。
「野球部見に行くけど」
「……迷惑になりませんかね」
「迷惑掛けに行くんだよ」
そのまま部長はすたすたと去っていく。
どうしよう。
スリッパのままであることに一瞬躊躇って、部長も中履きのまま出て行ったことを思い出し、私はちょっと迷ったけれど、部長を追い掛けてグラウンドへ向かった。
部長は当たり前のようにスリッパで、グラウンドの脇のアスファルトを歩く。ちょうど部室へ向かう道を、外からなぞる方角だった。野球部の声が近づいた。野球部の部員が数名気づいて部長に手を振るのを、部長は軽く手を挙げていなす。部長が他人と言葉を交わすのを見るのは珍しいことだった。
野球部の何人かが私をちらちら見ているのが分かった。あれだよあれ、ハルのカノジョ、そんなことを思われているのではないだろうか。野球部に知った顔は、クラスの野球部員数名と、あとはハル先輩だけだった。ハル先輩の姿は遠目にもすぐに分かって、部長にはにこやかに手を振りながら、私には軽く会釈して目を逸らした。やっぱり迷惑なんじゃないだろうか。私は部長と適切な距離を保ちながら、野球部から見て自分が部長の死角に入るように意識しながら足を進めた。
野球部ではちょうど、ゲーム形式の練習をしていた。ハル先輩は守備、キャッチャーから見て真正面のいちばん遠く、校舎側に近いところに立っていた。私は野球をほとんど知らないので、詳しいことは分からない。ルールすらも曖昧だ。よく見ると、ハル先輩は両足首にサポーターをしていた。捻挫は左足だったけれど、片方だけしているのも落ち着かないのかもしれない。
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