game6. ―3

 『カノジョ』。

 それもまた、ハル先輩は既に知っているのだ。

「いえ、私は別に」

 なんて答えるのが正解か分からず目を泳がせる私に、ハル先輩が苦笑して言う。

「それ以外の部分は正直、面と向かって否定できないからねー」

「え」

 それは、

「病院も松葉杖も、本当は要らないっていうことですか?」

「病院は、流石に毎日は行ってない。松葉杖も、なくてもいい段階までは来てる」

 ハル先輩が、松葉杖をぱっと地面から放して、慎重に二、三歩歩いてみせた。

「じゃあ、なんで……」

 私はそう言い掛けて、言葉を呑み込んだ。その理由を、私は知っていたのだった。

 私のせい、だ。

「明季さんのせいじゃない」

 ハル先輩は、言葉を呑み込んだ私を見て、そう静かに断言した。

「明季さんに責任はない。俺が、勝手に明季さんと帰りたかっただけで」

「それは」

 私は努めて冷静に、どういう意味か聞こうとしたけれど、できなくて言葉を止めた。

 それが聞こえていなかったようで、ハル先輩は言葉を続ける。

「言い訳に、してた。明季さんを逃げ道にしてた。ごめん」

「部活に、行きたくないんですか」

 ハル先輩は質問に答えず、しばらく黙る。

 次に口を開いたのは、いつも別れる曲がり角だった。

「明日、部活行くよ」

 ハル先輩がそう言った。

 その顔は笑っていた。

 下手な笑顔だった。

「明季さん、ごめんね、明日は一緒に帰れない」

「私のことは気にしないでください。大丈夫なので」

 余裕のなさそうな歪んだ笑顔に、私は紡ぐ言葉が見つからないで、俯く。

 明日は、と、ハル先輩は言うけれど、明日だけというわけではないだろう。これから、ずっと。

「小説、完成したら見せますね」

 その頼りなげな約束は、帰り道が同じ方向であることを除けば、部長しか接点がない私たちふたりを繋ぎ止めておく私のなけなしの努力だったけれど、

「うん、楽しみにしてる」

 そう微笑んだハル先輩の笑顔も、さっきよりちょっぴり力が抜けているようで、私も安堵の笑みを浮かべた。

「じゃあ、また」

 背を向けたハル先輩を見送りながら、私はポケットの中の携帯を上からぎゅっと抑えた。連絡先を交換しようと、結局最後まで一度も言われなかった理由を考えながら。

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