game3.
電車が駅に着き、ふたりはホームに降りた。
私はちょっと先に行って、エレベーターのボタンを押しておく。この駅はさっき電車に乗った方の駅と違って、改札をくぐるのに一旦上ってまた下りなければいけない。
「ありがとう。明季さん、気配り上手いね」
「……これぐらい普通じゃありません?」
「できない人にはできないよー、例のさっきの前部長さんとかね」
いや、私、その人のことよく知らないし。
無事に駅を出ると、私は自転車をひいて先輩の横を並んで歩いた。
「ハル先輩、荷物、かごに入れますか?」
提案すると、ハル先輩はちょっと迷う素振りを見せた。さっきまでなら即決で断っていただろうに。
流石に疲れたんだろうな。
私は自転車を一旦停めると、何も言わずハル先輩から鞄を受け取って自転車のかごに入れた。
「家まで送ります」
「いや、それはいいよ、わざわざ」
「そう……ですか?」
私は、ハル先輩の顔を見た。
拒否なのか遠慮なのか、分からない。それがもどかしい。
何ブロックか歩くと、
「あ、じゃあ俺、ここで曲がるから」
ハル先輩がそう言って、鞄に手を伸ばした。
私は自転車を停めて、先輩がリュックを背負うのを手伝った。
「鞄、重いですね……」
「今日、ほんとは部活行く予定でさ。荷物多いんだよね。でも、病院の予約が取れたから帰ってきたんだ」
「部活行く予定だったんですか?」
その怪我で?
「まあ、腐ってもキャプテンだから。チームのためにできることはいっぱいあるよ。自分のトレーニング然りだけどね」
「え、キャプテンだったんですか!?」
「うん、そうだよ。野球部部長。見えない?」
ハル先輩が冗談めかして笑った。
いや、見えないとかそういうことではないけど。
「大変ですね……」
そう言いながら視線は自然に彼の足へ行く。
「まあ、好きだから。野球も、チームのみんなも」
それじゃ、とハル先輩は片手をあげて、ゆっくりと歩いていった。
明季は、角を曲がって見えなくなってもしばらくその場に立ちすくんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます