game2. ―2

 唐突な話題に面食らった。しかも、そんなにさらっと聞くことじゃないのでは、それ。

 私が返事に窮しているとハル先輩は声を出して笑った。

「ごめんごめん。答えづらいよね」

 今日の部長はあんまり怖くなかった、と思った。でもそれはつまり、普段は怖がっているという証拠で、私は何と言えばいいか分からず黙っていた。

「人見知りなだけなんだけどねー。年下の女の子からしたら、初対面のあいつは怖いよなあ」

 人見知り、か……。

 私は、ため息を呑み込む。

 言ってしまえばただの人見知り。確かにそうだ。

 なんか、今の文芸部が抱える最大の問題が、たった一言で片付けられてしまったような気がして。

「去年は茉緒先輩がいたからよかったんだけど」

 茉緒先輩、という名前に聞き覚えがあった。

「えっと、前の部長さんでしたっけ」

「そうそう、幼馴染みだったんだ。ひとつ先輩なんだけどね」

「ん? 部長の幼馴染みですか?」

「あ、諒輔と俺も幼馴染みみたいなもんだから」

 へえ。

「幼馴染み三人で同じ高校来てるんですか?」

「まぁ、近いしねー。俺なんて、ほぼ滑り込みだし」

 でもこの高校って、近いからなんて理由で簡単に来られるところじゃない……と思う。公立ではそこそこの進学校だ。

 中学では優等生だった私も、ここに来てからはなかなか苦労をしている。高校に来て初めてのテストでは、結構頑張ったつもりだったのに自分より良かった人が何人かいて正直驚いた。なんて、赤点と必死で戦ってる琴花に言ったら叩かれそうだけど。

「それでも、すごいです。みんなで来ようって言ってたんですか?」

「いや、うーん……。その先輩が居るから来たってのが正しいかなあ」

「部長が文芸部に入ったのも、先輩が居たからですか?」

 そう訊くと、ハル先輩は慌てたように首を振った。

「そんなことないない。あいつは、純粋に本が好きだよ」

 そのハル先輩の様子に、私はちょっと首を傾げた。

「部長が本好きなのは知ってます」

「あ、そう?」

 ハル先輩は拍子抜けしたようだった。さすがに私でも分かる。義務感だけで、十五人分の校正と、製本作業ができるわけがない。ハル先輩は少し考えて、また声を発した。

「まあ確かに、そのひとがいるってのが引き金にはなったと思うけど」

 そのハル先輩の声が、本当に部長を心配している響きで、ハル先輩は部長のことが大好きなんだなと思った。部長だって、部活のときのイメージが先行して、独りで生きているように思ってしまっていたけれど、ちゃんと友人のひとりやふたりいるのだった。

「ところで銀木犀さん」

 言葉を続けようとするハル先輩を、私は慌てて遮った。

「銀木犀、って、あんまり外で呼ぶのやめていただけますか……」

 ああそうか、とハル先輩が今気づいたように言う。彼の中では私は銀木犀なのだ。

「私の名前、城島きじま明季あきっていうので」

「じゃあ、明季さん」

 ああ、そこでナチュラルに下の名前を選択するのだなあ。

「俺、春名はるな真澄ますみっていうんだけど」

 そこでようやくハル先輩の本名を知った。

「『ハル』って、苗字ですか」

「そう。真澄くんって呼んでいいよ」

 付け足された最後の言葉は聞かなかったことにした。

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