game2. ―1

 私の通う桜名高校の生徒で、電車通学といえば辿るルートはだいたい決まっている。学校唯一の最寄り駅から総合駅である瑞崎まで行って、そこから散らばるのだ。

 その瑞崎駅がいちばん、人多くて危ないんじゃないかな……。

 でも、私はその手前で電車を降りてしまう少数派だ。大丈夫かな。

 もしよかったら、先輩の乗換え先の改札ぐらいまでついていこうかな。で、違う線に乗るとでも言って適当に別れれば。

 先輩は、校門を出たところですぐに見つかった。松葉杖でひょこひょこ歩く上に背が高いから、嫌でも目立つ。

 後ろから声を掛けようとして、一瞬躊躇う。

 ……ハル先輩、で、いいのかな。あだ名なんだと思うけど……。それ以外の呼び名は知らないし、ただ先輩って呼んで他の人が振り返っても困るし。道にはまだたくさんの桜名生がいた。

「えっと……ハル先輩」

 先輩が振り返った。

「あれ、銀木犀さんだ。どうしたの、帰り?」

 正解だったようだ。先輩が立ち止まったので、小走りで追い付く。

「はい、今日はもう帰るので。あの……」

「諒輔」

「え?」

「諒輔に言われて来たんでしょう」

 そう言われて、咄嗟の返事に迷った。でも、迷ったことが既に肯定の証だった。

「ごめんね、初対面の銀木犀さんにまで迷惑かけて」

 それが自嘲のようにも聞こえて私は思わずハル先輩の顔を見たが、その笑顔に綻びは見えなかった。

 初対面、という言葉がなぜか重く響いた。

 それにしても、リュックとはいえ大きな荷物に松葉杖。ハル先輩はずいぶん歩きにくそうに見えた。

「……鞄、持ちましょうか?」

「え? 大丈夫だよ」

 ハル先輩が、にこっと笑った。

「むしろ、俺が銀木犀さんの鞄持ってあげなきゃいけないぐらいだね」

「え、なんで……ですか?」

 素で怪訝な顔をしてしまった。

 初対面の怪我人に、重い鞄を持たせる理由が分からない。

「だって、銀木犀さん女性だから」

 ……なにその理由?

「私、そこまで女々しくありません」

 反射で放った言葉は、予期していたよりずっと固く聞こえた。

 さっきまでの反感、引きずってるな……だめだ自分。落ち着かないと。初対面なのにこんな突っぱねてばっかじゃ。

「すみません」

 頭を下げる。

「いや、こっちこそごめんね、初対面なのに」

 だから、なんでそっちまで謝るんだって。

 しかも、私が突っかかったとこ的確に言い当てて。

 ハル先輩がゆっくりと歩き出したのに合わせて、私もようやく足を動かす。

 怪我している左足側に立とうとしたのだが、ハル先輩は無言で、自然な動きで私の左側にまわった。

 歩きながら、ハル先輩が言う。

「カーデ、暑くないの?」

「日焼けしたくないので……」

 もともとそんなに汗をかかない体質だ。部室が涼しかったので、駅に着くまでぐらいはもつだろう。

「女の子だなあ」

 別に女の子らしいわけではない。可愛くもないし、お洒落でもない。そう反論する前に、ハル先輩が話題を変えてしまった。

「諒輔さ」

 また部長の話。

「怖い?」

「へ!?」

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