第26話 二人目のF
私が接触したFの中の一人で、体ががっしりしていて、身長も高く、肩のあたりが肉厚な女性がいた。
色は白く、黒髪は肩に届かなかった。
目は小さいが切れ立っており、唇は平たいが厚みがあり、なかなか魅力的な女性だった。
このFに私が狙いをつけた理由は、珍しく挨拶してくることにあった。ここでは患者はもちろん、医師や看護師でも挨拶をしない人間が多い。
「おはようございます……」
いつ会ってもそれだけだったが、私はチョコレートなどちょっとしたものを彼女に与え、歓心を得るようにした。
女性患者、特にFと関わり合うことはご法度だったわけだが、ピッコのことで気を良くしていた私は多少強気に出ていた。もちろん、人目をはばかって接していたが。
それに、仕事もだんだん任される範囲が大きくなっていた。木原や古瀬がいなくなったことが大きいわけだが、医師や看護師とのやりとりもいくらか任されるようになっていた。
ちょっとした連絡とかその程度だったが、こうして直接やりとりすることが信頼を得る上では最も大切だということが私にもわかってきた。
彼らが嫌がることや面倒がることを積極的に代わってやった。ある意味、ゴミ捨てなどもそのうちの一つだった。
これまで看護師の副島亜希子、一人目のFと、いくらかトラブルを起こしてきたが、いずれもちょっとしたことだったし、仕事に関してはミスらしいミスはしていなかったし、仕事に関する人間関係ではトラブルを起こしたことがなかった。
私は他人の言うことを素直に聞いていたから。
この病院でも、人間というは一見うまくいっているように見えて、実は様々なストレスや悩みを抱えているものだが、結局、そういうのは他人と深く関わり合おうとか、自分や他人を大きく見過ぎであることが原因であるように思えた。
瞬間的には私も喜怒哀楽を覚えることはあったが、それは反応であって感情ではなかった。ゴキブリを見たら誰でも気持ち悪いと思うわけで、私もそうだが、それは一瞬で、ただの反応で、その後、引きずるようなことではない。ましてや、トラウマだとか、一生に関わる問題でもない。
こういう考え方、感じ方は、人間性を失ったものなのかもしれない。
私の最大の特徴は、恐怖を感じないということかもしれなかった。私の言う「恐ろしい」というのも反応で、感情ではないようだった。
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