第27話 セクハラ冤罪
私は一人目のFにできなかったことを二人目のFにした。
つまり、顔を寄せたり、肩を抱いたり、私なりにやさしくしたのだ。幸い、彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
彼女の肉厚で大柄な体は抱いていてボリューム感があって、これはこれでいいなと思った。
一人目のFは華奢で、そのわりに胸と尻が飛び出すように付いていた。あの体を抱きしめたときの感覚を忘れることはできなかったが、折れてしまいそうな体よりも乗っかっても大丈夫そうな体の方が安心だなとも思った。
私は二人目のFと隠れてではあるが一緒にいる機会が増えた。
幸い、ピッコもいっしょにいることが多かったので、私たちは三人で一組というふうに周りからは見えたのであろう。
それほど険しい目で私を見る人はいないだろう……そう思っていたが一人、そういう目で見る人間がいた。看護師の副島亜希子である。
彼女が何を目撃したのか知らないが、私の悪口を広め始めた。
前回、彼女自身が私に追い回されていると勘違いしたときは文字どおり騒ぎ立て、一気に周囲を巻きこんだわけだった。
だが、今回はヒソヒソと、コソコソと、一人を呼び出し、その話をし、また一人を呼び出し、長々と悪口を言う。ああじゃないか、こうじゃないかという疑いを膨らませるような言い方で。
彼女のキーホルダーの中の盗聴器はまだ活きていた。
その言葉回しの巧みさは舌を巻くほどだった。まくしたてるようにしゃべるので、当然相手も圧倒されるのだろう。彼女の言うことを信じざるを得なくなる。彼女の自信たっぷりな態度、神経質そうなのに他人に暗示をかけるかのような目、そして「……じゃないですか」という決めつけるような語尾。
彼女は自然と他人をマインドコントロールするすべを持っているのかもしれなかった。気の弱い人や優柔不断な人ならひとたまりもない。逆に気の強い人とは衝突が起こるわけだった。
私は看護師長の瀬戸崎に呼び出された。だが、その第一声は意外なものだった。
「副島さんはあなたに触られたと言っています」
あろうことか副島亜希子は私にセクハラをされたと言ったらしい。盗聴器ではとれていない内容だったため、余計に驚かされた。第一、私は触れるどころか、話すこともほとんどしていなかった。
自分の打ち明け話を始めたり、急に避けたり、内川が好きだと言った直後にふられたと言ったり、そして今回は触れてもいないのに触られた言う、彼女の精神状態はどうなっているんだと正直思った。
だが、いくら私が言い訳をし、自分の身の潔白さを訴えたところでどうなるわけでもあるまい。
私は何も反論せず、副島に触れたことを詫び、二度と触れないことを誓った。といっても本人不在なので、目の前にいる醜怪なババアに対して深く頭を下げたわけだが。
そして田沼にもそのことを言われた。
「副島さんはね、いろいろと気難しいところがありますから。あの瀬戸崎さんに対してですね、三十分以上もあなたのことを訴えたそうですよ。そんなことをされたら瀬戸崎さんも仕事になりませんし、第一、精神的に負担になります。そうしょっちゅう副島さんにわーわー言われてはね」
だとすると、田沼も瀬戸崎もある程度は副島がどういう人間なのかわかっているということなのか。少なくとも私より付き合いが長いわけだから、これまでにも似たようなことがあったはずである。
そう毎回毎回、副島の言うことを信じるわけではないだろうし、ある時点から副島の言うことに対して半信半疑になっているのではないか。
だが、それにしても今回のように、また副島の言いなりになるのは何故なのか。一種の儀式なのか。田沼も瀬戸崎も特別私を排除したいとか、そういう様子は見られない。もしかしたら、誰かにそういう考えがあるのかもしれないが……。
私はそんなことを考えていた。
それにしても、副島亜希子の問題は、対処の仕様がないだけに困った問題だった。
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