第25話 精神病院で育った子供

 精神病患者の中には幼い子供もいた。この病院では数少ない存在だった。

 小学校低学年くらいの少女で、芝生にちんまりとしゃがみこんでいるところを私が見つけた。

 この病院の患者の年齢や名前は、少なくとも事務員である私には知る方法がなかった。聞いたところでまともな答えは返ってこないし、探りを入れて誤解されるのもわずらわしかった。

 したがって、私は彼女に「ピッコ」という名前を与えた。なんとなく容姿がひよこのようだったから。

 彼女はピッコという名前を気に入ってくれているようだった。

 私は女性患者と接触することを禁じられていたが、子供ならいいと思われたのか、医師や看護師たちも微笑ましく我々を見守っているようだった。

 私はピッコと追いかけっこをしたり、草や花で飾りを作ったりした。

 ピッコは「オムライスが食べたい」と言った。どこでそんなものを知ったのかと聞くと、絵本で知ったのだと答えた。

 実際は「エホン、エホン」と連呼したので、理解するのに多少時間がかかった。

 確かにオムライスは食堂のメニューにないから、今度、オムライス大会をしようと私は彼女に約束をした。

 それくらいのイベントなら数日後にできたので、ピッコを含め何人かにオムライスを振る舞った。ピッコは頬を膨らませ、嬉しそうに笑っていた。

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