第23話 盗撮と盗聴

 私は盗撮用のカメラと盗聴器を病院の各所に仕込んだ。これらの器具はゴミ回収業者から高い金で買った。

 食堂のカメラによって、深夜に外から来た客たちが奥にある扉から地下へと行くことがわかった。

 さらに私はキーホルダーに盗聴器を仕込み、イベントがあるごとに配った。こうして私が入れない場所の情報も集められるようにした。

 時間はかかったが、やがてそれは食堂の奥にある扉の鍵にも使われるようになった。階段を下りてゆく足音、男たちのぶつぶつと呟く声……女性の奇声、嬌声、そして泣き声……体をぶつける音、特有の粘液音、さらには男のため息などが入手できた。

 また、私は日頃から物忘れがないように、あちこちに点字で記録をしておいた。トイレットペーパーとか、鉄柵の裏側とか、木の肌とか、人目につかないような場所に点字を打った。普通の人からはただの傷か汚れにしか見えないように。

 忘却剤のせいか、時々忘れていることがあった。だが、この点字によって思い出されることが多かった。

「田沼……客を斡旋している」

「Fと呼ばれる女は総勢二十人超」

「院長の草壁も大きく関わっている」

「良質の女性患者を売春婦に仕上げ、荒稼ぎをしている」

「いずれも身寄りのない、なんなら身許不明の女性患者」

 私はアパートの自分の部屋に定期的に手が入れられていることに気づいていたので、細かい器具はすべてキーホルダーの中に入れておいた。いかにもイベントで余ったもののように。

 大きな器具に関しては燃えないゴミといっしょにしておいた。今や私が管理する立場になっていたので、回収時にはこれだけを別にすればいいわけだった。

 決定的な映像こそ手に入らなかったものの、もはや充分すぎるくらいの証拠を得た気になっていた。

 私は気分良く湖畔を散歩していた。だが、急に我に返るような冷たい感じにさせられた。

 一本の木に点字でこう刻まれていたのだ。

「水井に気をつけろ」

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