第18話 体の反応を試す
言葉が不自由な女性の中にもFはいた。彼女と手話で積極的にコミュニケーションをとり、手がかりとなる言葉を求めた。
結果、彼女たちから性的な言葉を得ることができた。私は「最近、楽しかったことは?」「最近、困ったことは?」などと問いかけ、巧みに言葉を引き出した。
彼女たちは「触れる」とか「揉む」とか接触に関する言葉に対して敏感に反応した。頬がピクっとなったり唇がかすかに震えたりした。
また、私が彼女たちの手や肩に触れると勢いよく体を離した。あくまで自然に触れるようにしていたが。彼女たちには、たとえば看護師の副島のように言葉で反抗する、人間関係を駆使して相手を追いやる、などといったことはできないわけだった。
木原が一人の女性患者に入れ込んだのも実感として理解できた。
抵抗をしない、あるいは抵抗がうまくできない他者への接触は、一種の中毒性があった。
そして、私が想定していたとおり、やがて田沼からお声がかかった。
女性患者とはこれ以上、接触しないように。あなたに触られたと怯えている方もいらっしゃいます。
私はいつものとおり申し訳ない感じで、そういうつもりはなかった、相手を傷つけたなら今後は注意する、もう、彼女たちには近づかない、私はどうも人とコミュニケーションをとるのが下手なようです、と言っておいた。
田沼はどうやら私が木原と同じことをしようとしていると考えたようだった。
副島亜希子との仲も微妙な感じだったので、田沼はどうも私が女好きというか彼女を欲しがっているというか、要するにそのへんの男と変わらないと思ったらしかった。
私はなんとなくFがどういう存在なのかわかりかけていた。
そして、確信を得るために、最初のFともっと深い接触をとることが必要と考えた。これは多少、危険な賭けだった。
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