第17話 料理に忘却剤

 私は時々、頭がぼんやりしてしまうことがあった。この病院に来てからなのか、ずっと前からなのかよくわからなかった。

 ただ、食堂で出される料理を食べているうちに、こうなったという気もしていた。

 なぜ、患者用と職員用で鍋を分けているのだろう。もしかしたら、精神安定剤か何かが入っているのではないか。どちらにか。両方にか。職員用の鍋には少なめに入れているのか。私はそんなことを考えていた。

 食堂の「栄養たっぷり」の料理には忘却剤か何かが入っているのではないか。パソコンやスマホ、メモだけでなく、人の記憶まで消し去ろうとしているのでは。

 そう考えると、恐ろしかった。

 私は極力、食堂の料理を食べないようにした。あまりに食べないと怪しまれるだろうから、口に含むだけ含んで隠れて吐き出した。あとは「食欲がないんです」などと適当に答えておいた。

 目が覚めたときに、頭の中の血管がパンパンになった気がし、耳に入った水を抜くように頭を左右に振ってみたりした。

 窓の外には白いシーツが揺れていた。

 シーツの揺れを見ているうちに何かを思い出せそうな気がしていた。

 なんとなく、記憶のどこかが抜け落ちているような気がしていた。

 何か重大なことを忘れているような……。

 私は木原のこともあったと思うが、この病院の謎に近づくためには、Fについて知ることが近道だという気になっていた。

 だが、最初に会ったFは難しい。ならば、他のFだ。他の……F……。

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