第28話 三人は街を後にする
サリアの暴走を止めた翌日、セロ達は早朝に荷物をまとめて館を出ていた。
行き先は未定。馬車を借りると足がつくため徒歩でツーレンへ向かっていた。
枯れ草が生い茂る荒野。風は冷たく、だが長い間歩いているため寒くはない。むしろ汗さえ滲んでいるくらいだ。
にしても。
「歩きでツーレン……。面倒この上ないな」
「四の五の言わずに歩きなさいクソ男。私の方が荷物重いのに弱音を吐くなんて万死に値するわよ」
「サリアの分も持ってるからだろうが」
「サリアに荷物を持てって言うの? これだからオスは……」
「まあ暴走の次の日にしろとは俺も言えないが。……キツくなったら俺に渡せ」
「死んでも嫌」
「ああそう……」
あんなことがあったというにも関わらず、フェリスは平時のそれと変わらない。今後はこの二人と長い付き合いになるのに、これでは先が思いやられる。セロはバレないように嘆息した。
「今溜め息ついたわね下僕」
「よく気付くなサリア」
「暴走後のせいか色々感覚が鋭敏なのよ」
「敏感になっちゃってる!?!? さ、サリア……そんなエッチなことこんなところで言わなくても……」
「次そんなこと言ったらアンタだけ置いていくわよ」
「てことはクソ男と二人きり……? そんなの絶対許さないわよ!!!」
「声でけぇよ」
フェリスの情緒が心配になるくらいの豹変に、しかし慣れた様子でセロはツッコミを入れる。
そんな風にして、セロ達はかれこれ数時間は歩いていた。時折襲ってくる魔獣はセロがすぐに片付け、金になるかもと魔力核だけは抉り出す。
ただ一つ、まだサリアには言えていないことがある。フェリスがそれを伝えようとはしていない辺り言う必要は無いのかもしれないが、ケジメとして言わなければと思っていた。
「サリア」
「サリアと話す時は私を通してから言いなさい。対等に話せるとは思わないことね」
「昨日までの俺の目的の話だ」
「っ!」
フェリスの戯言を無視して本題を切り出す。フェリスは言葉を詰まらせ、サリアは視線だけをセロに向けた。
「俺は護衛としてお前らのパーティーメンバーになった。だがそれは表向きの理由だ」
「そうね」
「ただ本当は、お前を暗殺する任務を受けていた。護衛は表の身分、実際は五歳から暗殺業を生業にしている」
「だからどの技も対人用だったのね。言われてみると納得だわ」
「……お前、あんまり驚かないんだな」
怒るとは考えていないが、それなりに動きを見せると思っていた。しかしサリアの変わらない様子に、セロは拍子抜けする。
「で、だ。昨日俺はそこを裏切った。大元は狙ってこないらしいが、あの爺さん、ウォルド……じゃなくて、表の名前はウォルフォードだったか。アイツが俺らを狙ってくる。これは確定だ」
「じゃあ返り討ちにするのみよ。殺さなければ自衛として成り立つでしょ?」
「あと一つ」
「何、まだあるの?」
本当は本題は終わった。だがこの空気のまま終わるのは、何だか変な気がした。
セロは、そこで初めてふざけてみる。
「昨日フェリスが俺のことを“セロ”って呼んだんだよ。だからお前も、下僕じゃなくてセロで統一して欲しい」
「なぁっ!? クソ男、アンタそれ聞き間違いじゃないの!?!? 絶対言ってないわよ!!!」
「へぇ。珍しいこともあるのね」
「言ってないから!!! サリア、私こんなクソ男のことを名前呼びなんてしないから!!! お願い信じて!」
「何思いっきり嘘ついてんだよ。助けてよ、セロとか言ってたじゃねえか」
「言ってない!!!!!」
バカみたいに大きな声で否定するフェリス。その顔は真っ赤に染まっていた。
「一緒に風呂も入った仲ってのに、冷たいやつだな」
「あれはアンタが勝手に乱入してきたんでしょうが!」
「は、はぁ!? アンタ達そんなところまで……! 盛ってんじゃないわよ変態達!」
「ねえサリアやめて! 私の貞操はサリアに捧げるって決めてるの!」
「……アタシだけ魔族のところに帰ろうかしら。変態が伝染る」
「その前にネイの店で飯を食ってからだな」
「「何でセロは普通なのよ!!!」」
二人仲良くツッコミがハモる。こっそりどちらもセロと呼んでいることに気付きセロは笑みが零れそうになるが、真顔を装う。
「ツーレンで飯を食ったら次の街だな。金を考えたらその街でクエストでもするか?」
「ミスリールの街は中々強い魔獣が居るって聞くけど、サリアが居るなら大丈夫ね」
「塵も残さないわ」
「魔力核だけは残しておいてくれよ」
軽口を叩き合いながら、セロ達は荒野を進む。
その姿は、どこからどう見てもパーティーメンバーとして繋がっていたのだった。
天才暗殺者は慣れない護衛任務を新米冒険者として楽しむようです しゃけ式 @sa1m0n
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