第24話 暗殺者は約束のブツを届ける

 無事魔族の魔力核を取ってくることが出来たセロ達はその足で闇ギルドへと足を運んだ。


 地下にはブローカーのみで、他には誰も居ない。


「……で、何でお前らは返り血を落としてねぇんだ? 嫌がらせか? 嫌がらせだよな?」

「「勿論」」

「俺ぁ止めたんだが、凪と天泣が聞かなくてな……」

「ふざけんなよお前ら……。クソ、回収班にでも掃除させとくか」


 どこか慣れた様子でブローカーは頭をガシガシと掻く。第一魔法研究所から闇ギルドまでは少し距離があるというのにまだ血が固まらず滴っているのは、恐らくティアの魔法だろうと結論付けた。


「とりあえずこれが魔族の魔力核だ。ここで渡したらそのまま煉獄の爺さんに渡してくれんのか?」

「ああ。さっさと寄越せクソガキ」

「ん」


 言われたセロは雑に放り投げる。ブローカーは片手でキャッチすると、大きな溜め息をついた。


「しかし、よく殺せたな。聞いていた話ではあそこの研究者共の最高傑作だったらしいんだが」

「ビビってティアを連れて行かせたお前のミスだ。俺一人ならこんな血まみれにはならん」

「言っとけクソガキ。万全に万全を重ねて初めて百パーセントになるんだよ」


 売り言葉に買い言葉。セロの憎まれ口にブローカーはいつものように返す。


 ……そこで、一つ疑問が浮かんだ。


「研究者共の最高傑作か。随分事情を知ってるようだな」

「そりゃそうだ。だったからな」

「……やっぱり知ってたのか。アルベールがやけに手薄な警備を疑問に持っていなかった時点で予想はしていたが」

「? 何です、ティア騙されてたってことです?」

「そんなところだ」


 詳細な事実は異なるだろうが、セロは面倒に思ったため雑に返す。ティアは眉をひそめながら首を傾げていた。


「そういうこった、凪。良いもん見させてもらったぜ」

「半分以上はティアが殺ったんだがな」

「逆に言えば半分は凪がやったんだろ? 序列一位と序列二位の共闘なんざ普通なら見れねえよ。よしんば見れたやつが居たとしても、そんなやつはどうせ死んでる」

「否定は出来ないな」


 こんな風に同行する人間など普通は居らず、とすると目にするのは殺害対象のみ。セロもアルベールも、共通認識で頷く。


「じゃあ俺は行く。アルベール、世話になったな」

「おう。また何かあったら言ってくれ、凪」

「セロで良い」

「ん。じゃあな、セロ」


 戦闘能力は先の戦闘で、加えて諜報能力等頭の切れる場面も見たセロは、呼び捨てを許可することにより認めたと暗に伝える。そんな様子にブローカーもふと笑い、鈍いティアだけはまだ首を傾げていた。




 夜ももうすぐ明ける頃、セロは館へと辿り着いた。乾いた血は肌と服をガチガチに固めており、これは着衣のまま風呂に入った方が良いなと浴場へ直行する。


 少し重い扉をぎぃとスライドして中へ入る。そこには一つ、薄い月明かりに照らされた人影があった。


(……ん? 人影?)


 動く度パリパリと鳴る固まった血を気にしすぎて気付いていなかったが、一つ気配がする。


 女特有の丸みを帯びたボディライン。どっちが相手でも死ぬ程面倒になるなと、セロははぁと溜め息を漏らした。


「……私の裸を見て溜め息。ぶち殺すわよクソ男」

「フェリスか……」

「わかったらその粗末なものをとっとと隠しなさい……って、何。服のままじゃない」

「お前も羞恥心とかないんだな」

「クソ男は虫に裸を見られて恥ずかしがるの? それと同じよ」


 ということはセロは本気で虫程度にしか思われていないことになるが、考えると悲しくなりそうだったのでそうそうに思考を打ち切る。


 雲が動いたのか、先程よりも強い月明かりが浴場を照らす。傷一つないフェリスの肢体が惜しげも無く晒されると同時、セロの姿もフェリスの目にしっかりと映った。


 その姿を見て、フェリスは思わず息を飲む。


「クソ男……、アンタ、その服」


 夥しい程の返り血。しかし肝心のセロ自身に痛手は全く存在しない。


「お前は俺の前職を知ってたよな。察しの通り、その帰りだ」

「やめたんじゃなかったの」

「冒険者を始めてからはやってなかった。今回のも冒険者活動の一環だ」

「は?」

「正確に言うならサリアのためか。魔族の魔力核、確保してきて既にあの爺さんに渡してある」


 セロはこともなげに答えてから桶に水を貯め、頭の上からバシャリと全身にかける。それを数度行い、血をまた柔らかくしていく。


「……それ言われたの、昨日の夜よ」

「早い方がお前にとっても都合が良いだろ」

「ふん。その程度で私がクソ男を認めるとは思わないことね」

「そんなつもりはさらさらない。……っと」


 そろそろ服が脱げる程には血も落ちてきたので、セロは一気に上服を脱ぐ。次いでズボンからパンツと、フェリスが居るのを気にせず全裸になった。


「私が女って知ってるわよね?」

「虫が服を脱いでも気にしないだろ」

「……何か負けた気分になるから、私はまだ入ってるわよ」

「好きにしろ」


 それから会話が続くことはなく、浴場には水の音が響くのみ。


 翌日、セロとフェリスが一緒に風呂へ入ったことは勿論サリアには言わなかった。

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