第7話 変態パーティーは作戦会議をする

 馬車に揺られることおよそ八時間程。太陽が落ち辺りを月明かりが照らす頃、これ以上は進めないと馬車を草原に止めていた。

 セロ達は馬車を降りてパチパチと燃える焚き火を囲む。


「じゃあこれから明日の作戦を考えるぞ」

「ん」

「クソ男が仕切るのは気に食わないけど、まあ良いわ」


 今日はここで野宿をし、明日盗賊の本拠地へと繰り出す。与えられた情報は少ないが、それでも意思疎通を図っておくことは有効だ。


「俺達がわかっているのは盗賊のアジトの場所と大きさ、それとおおよその人数だけだ。アジトの規模からするに大体二十人前後だろうな」

「アタシの時代にも物盗りはいたけど、徒党を組んでたやつは少なかったわ」

「現代でもそうだ。それにこいつらは頭数も多い」

「厄介なのは逃げられた時ね」

「ああ。だから二手に分かれようと思う。一方はアジトに侵入してまずかしらを抑えてから他の人間を捕らえ、もう一方は外で取り逃したやつを見つけ次第捕縛だ」


 トップが捕まれば統率が取れなくなり、その後が楽になる。セロは焚き火に薪をくべながら続けた。


「そこでなんだが、サリアには外の方をお願いしたい」

「理由は?」

「サリアの魔法じゃ人を殺しかねない」

「……ま、良いわ。ならその理屈で行くとセロとフェリスが中で捕縛ね」

「俺はそのつもりだったが、なぜフェリスも?」

「フェリスは元看守なのよ。人を相手に出来ないわけがないでしょ」


 それもそうか。セロは心の中で頷き、フェリスの様子を伺う。何故かいつもよりも静かだったため少し気になってもいたのだ。


「私とクソ男が一緒に行くなんて手足がもげても嫌だけど」


 いつも通りも良いところだった。フェリスはやれやれと首を振ってサリアに訴える。


「クソ男は対人戦闘能力は高いんだから一人でも大丈夫よ。むしろ一人で行かせてあわよくば死んでもらいましょ? これが一番の正解よ!」

「ねえフェリス。アンタは奴隷のくせに自分の嫌なものを主のアタシに押し付けるの?」

「そ、それは……」

「……フェリス。それじゃ命令を聞けたら明日の夜アタシの、その……。……ベッドに来なさい。可愛がってあげる、から」

「ササササリア!? 本当!? 本当ね!? 私本気にしちゃうからね!?」

「ええ」

「あぁ……今から考えただけでももうイっちゃいそう……」


 恍惚の表情を浮かべるフェリスは両手を頬に添えてうっとりする。まあそれで良いなら口は挟まない。セロは話を進める。


「なら俺とフェリスがアジトに侵入、サリアは逃げてきたやつを叩いてくれ」

「クソ男と一緒は不満だけど、それもサリアとの夜のため……!」

「一匹残らず仕留めてやるわ」

「おや、作戦会議ですかな?」

「ん、ああ馭者ぎょしゃの方ですか。お疲れ様です」


 割って入って来たのは馬車でここまで連れてきた初老の老人。この道四十年のベテランらしく、白い顎髭が特徴的な人当たりの良さそうな人だ。


「確か盗賊を退治されるのでしたな」

「はい。ギルドからの斡旋で」

「そうでしたか。……差し出がましいとは思いますが、気をつけてくださいな。そこの頭は魔族と交戦して生き残ったとされる強者つわものですからの」

「……魔族?」


 その言葉に反応を示したのはサリアだった。ギロリと馭者を睨む眼光は鋭利な刃物のようだが、流石は年の功。ほっほと笑いながら話し出した。


「少し前に噂になりましてな。何でも盗品の中には魔族から奪った物もあるとか。一体どのような代物なんでしょうな」

「ふぅん。……セロ、フェリス」

「何サリア! 明日の夜まで待てなくなっちゃった?」

「そいつだけは話せる程度に生かしておきなさい。聞きたいことがある」

「……ま、元より全員生け捕りにする予定だ。心配せずに外で待っていてくれ」


 フェルムベアの討伐の時に聞いたサリアの目的。魔王へと辿り着くためには情報は不可欠だ。目の色を変えるのも当たり前だろう。


 それからは作戦会議も特に進展はなく、ぐだりだしたところで終了になった。ただどうしてもセロ達には相手の情報が足りない。


 せめてもの対策として、セロ達は今日は早く寝ることにしたのだった。







 翌朝、セロ達が起きたのを確認した白髭の馭者は馬車を走らせ、一行は盗賊の本拠地から少し離れたところに到着していた。


 遠目からでもわかるほどの大きな建物。二階建てだが横に長く、まるでギルドのような見た目をしている。


「フェリス。準備は良いか?」

「クソ男こそ死ぬ準備は出来た?」

「死ぬわけねえだろ」

「あっそ。じゃあサリア、良い子にして待ってるのよ♡」

「“ひれ伏せ”」

「あっ……んんっ!! こ、この無理やり忠誠を誓わされてる感じ……良い……っ!」


 サリアのドS魔法で地に伏せながら、それでも満面の笑みを浮かべて震えるフェリス。あまりにもいつも通りすぎる様子に、セロは溜め息をついた。


「サリア、キリが無くなるからそれやめろ」

「……ま、今回はアタシにも益があるからやめておくわ。ただ下僕、次にそんな口を聞いた時は虐め抜いてあげる」

「はいはい……。今度こそ行くぞ、フェリス」

「チッ……、せっかくのご褒美を……」


 不満たらたらなフェリスは不愉快そうに立ち上がる。だが流石にもうサリアにちょっかいを出す様子はなく、セロとフェリスは盗賊のアジトへと足を進めた。

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