第8話 神様の領域
「会議」と聞くと、なんだかきっちりとしていないといけないようなイメージだと思うのですが、天使会議の最中は、どんな格好をしていても大丈夫です。シカクさんは雲のクッションに寄りかかり、サンカクさんは雲に寝そべり、ダイケイさんは胡坐を組む。というのがいつものパターンで、マルはというと、先輩方を前に緊張して、いつも正座をしてしまうのでした。
「というわけで、悪い人ではないのに、勝手に噂が独り歩きして、鬼ババアっていうあだ名がついているおばあさんなんです。その家だって、鬼ババアが住んでいるからっていうだけで妖怪屋敷って呼ばれていて。ケンタは子猫を捨てようとしたんですけど、それを助けてくれたのは鬼ババアです。鬼ババアは鬼ババアなんかじゃなくて、とっても心が優しい人なんです。それを街の人たちに知ってもらいたいんですけど、どうしたらいいと思いますか? かなり切羽詰まっていて、早く行動しないと、鬼ババアは街を追い出されるかもしれないんです」
マルが必死に訴えると、それまで黙って聞いていたサンカクさんが「それはそれでいいんじゃない?」と言いました。
「一人暮らしって言っても、どこかに家族はいるんだろ? だったら、家族と一緒に暮らした方がいいに決まってる」
「まぁ、それはそうだ。おばあさんっていうからには相当の年齢になってるってことだろ? 人間でいう何歳なんだ?」
そう聞いてきたのはダイケイさん。
「えっと、八十二歳です」
「八十二?! だったら、もう一人暮らしの方が危ないだろう? 家族のところへ行かせろよ!」
サンカクさんはもう話しを辞めたいようでした。つまらなさそうに雲をちぎり始めたのがその証拠です。でも、マルは粘りました。マルにだって人間のおばあさんの一人暮らしに限界があることは分かっています。ですが、家族の元に行かせるにしても、鬼ババアの異名だけは挽回して、ちゃんと鬼ババアが鬼ババアじゃないことを街の人に知らせ、鬼ババアが納得するのなら家族の元へ行かせるべきだと思ったのです。
「そうねぇ……」
物思いにふけっている様子だったシカクさんが、何か閃いたようにマルを見ました。生き生きとした瞳から、何かいい考えが浮かんだのが分かります。
「ねぇ、マル。私たちは普段人間には見えないし、見えてはいけないものだけど、その年齢の人間なら、もう『神様の領域』に入っている可能性があるわ。一度直接話をしてみてはどう?」
「神様の領域?」
マルがオウム返しに聞くと、ダイケイさんがまた「わはは」と笑いました。
「マルにはまだ早いかもしれんが、人間にも天使にも、ある程度の年齢を超えると全てを卓越したレベルの力を持つことがある。鬼ババアがそのレベルに達しているかは分からないが、試してみる価値はありそうだ」
「それって、姿を見せてもいいってことですか?」
確認をと思って繰り返すと、シカクさんは意味深にふふふと笑いました。
「見せるんじゃなくて、『見える』のよ。そのレベルに達していればの話しだけど」
そこまで話すと、マルの街の鬼ババア問題についての議題は終わり、そこからはサンカクさん、ダイケイさん、シカクさんの街での議題を話し合うことになりました。マルはもちろんその会議に参加し、それぞれの街の問題について意見を交わしましたが、頭の中では鬼ババアのことばかりが浮かんで消えませんでした。
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