第7話 天使会議
シカクさんが住んでいる雲の上に着くと、その広い雲のあちこちに向かってマルは「シカクさーーーーん」と叫びました。シカクさんは天使仲間の中でも一番のベテラン天使です。そのせいもあって、マルよりはるかに広い街を担当していました。街が広い分、シカクさんが暮らしている雲もとても広く、シカクさんがどこにいるのかすぐには分かりません。
何度かシカクさんの名前を呼んでいると、「マルー? こっちよー?」と声が返ってきました。その声が聞こえた方へとマルが翼をはためかせると、シカクさんは雲で出来たドレッサーの中に備え付けられた鏡を見ながら、腰まで届く長い赤茶色の髪の毛を必死に編み込んでいる最中でした。
「シカクさん、どこかへお出かけなんですか?」
いつもなら長い髪をそのままに流しているシカクさんがオシャレをしているらしいことに気づき、マルは聞いてみました。
「マルったら忘れたの? 今日はひと月に一度の天使会議の日よ? 一カ月ぶりにサンカクやダイケイに会うんですもの。少しはおしゃれをしようかなと思って。どう?」
今日が天使会議の日? マルはすっかり忘れていた自分に驚きました。そして、なんてグッドタイミングなんだとも思いました。サンカクさんもダイケイさんも、マルよりははるかにベテランの天使です。シカクさんを加えた三人に相談をすれば、きっといいアドバイスがもらえるに違いありません。マルは嬉しくなってにっこりと笑いました。
「とてもお似合いです。そうだ! 次の天使会議の日に何かお花を持ってきますね。シカクさんの髪に似合いそうなお花を」
シカクさんは褒められたのが嬉しかったのかちょっとだけ頬を染め「ありがとう」と言って、切れ長の目でマルを見つめるとニッコリとほほ笑んでくれました。こんな様子を見ていると、シカクさんはいずれ女神さまになられるのかもな。なんてことをマルは思いました。
天使として仕事を全うし、十分な経験を積むことが出来れば、女の子の天使は女神さまになることが出来るのだ。と、先月の天使会議のときにダイケイさんが言っていたのを思い出したのです。マルを含めた四人の天使の中では、シカクさんがダントツに経験が豊富でしたし、シカクさんの街は平和そのものです。そんなシカクさんだからこそ、女神さまになれる資格を持っているような気がしました。
シカクさんが丁寧に髪の毛を編み込んでいる様子を見ていると「やあやあ、遅くなってごめんよ」と声がし、振り返ると、華奢な身体にサラサラとした黒髪、尖った鼻と顎が特徴のサンカクさんが雲に降り立つのが見えました。続いてやって来たのは、体格が良く、それでいて天然くせっ毛で栗色の髪の毛がくるんくるんと巻いているダイケイさんです。
「マルがもう来ているなんて驚いたな。お前は大抵遅刻なのに」
サンカクさんがいつものようにちょっと嫌味を含めてからかってきます。マルは内心ムッとしながらも「シカクさんに相談があって伺ったら、今日が天使会議の日だと聞いたところです」と答えました。
マルの返事にダイケイさんは豪快に笑います。
「マルらしいなぁ。それにしても、お前はちっとも背が伸びんな。ちっこいまんまだ。おまけにその金髪ときた。いつも思うんだが、マルは女の子みたいだな」
これにはさすがのマルもカチーンと来て言い返そうとしましたが、その間にシカクさんがするりと入ってきました。
「天使同志仲良くするのが決まりです。お互いの外見や自分が言われて嫌だと思う言葉でからかうのはおやめなさい」
シカクさんはやっぱり女神さまになれる方かもしれません。たったその言葉だけで、サンカクさんもダイケイさんも黙り込み、マルをからかうのをやめてしまったのですから。
そしてマルはこれこそが相談したかったことなのだと思い、三人に早速話しを切りだしました。
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