第6話 不穏な空気

 微笑ましい二人の交流が続くことはとても嬉しいことでしたが、マルは街の中に渦巻く不穏な空気を感じ取っていました。何か嫌なことが起きる前には、この空気が流れることを、マルはこれまでの経験から知っていました。

 マルはパトロールを強化し、特にケンタの両親がどういう対応に出てくるかを気にかけて見守っていました。

 ある日の夜、ケンタの両親が二人でテーブルを挟んで話し合っているのに気づいたマルは、窓へ近づくと耳をそばだてました。二人の様子からただならぬ雰囲気を感じとったからです。案の定、ケンタのお母さんが「校長先生に相談してみるわ」と話しているのが聞こえてきました。

「妖怪屋敷に通うなんて危険だわ。あそこに住んでいるおばあさん、一人暮らしなんでしょ? ケンタが何をされているかって考えるだけで怖くなるわ。妖怪屋敷には近づかないようにって、校長先生から注意をしていただきましょう。それに、出来ることならあの鬼ババアには、この街から出て行って欲しいものだわ」

「確かにな。あの家はずいぶん古いし、火事にでもなったら大変だ。俺も区長のところに行って相談してみよう」

「鬼ババアの家族は何をしているのかしら?」

「家族がいないから、ああやって一人でいるのだろう」

 好き勝手な想像で、二人は鬼ババアを悪者だと決めつけています。

 何度も言いますが、マルは小さな頃から鬼ババアのことを知っています。鬼ババアにも子供の頃があり、青春時代があり、子育てをし今に至るのです。家族がいないわけでもないし、それよりずっとすごい人なのだということをマルはよく知っています。でも……。

 マルは慌てました。このままでは二人の交流はおろか、鬼ババアはこの街を追い出されてしまうことにだってなりかねません。

 マルは自分が住んでいる雲へと戻ると、雲の上を行ったり来たりして考えてみましたが、いい考えなど全く浮かびません。こういうときは、天使仲間であるあの三人に頼るのが一番です。

 マルは背中の大きな翼を広げると、シカクさんの街を目指して飛び立ちました。



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