第4話 鬼ばばあの真実
ケンタが飛びだした後、鬼ババアは隣りの部屋から暖かい毛布と籐で出来たカゴを引っ張り出してきました。そのカゴに毛布を敷きつめ、三匹の子猫たちを入れました。子猫たちはまだ「にゃあ」とも鳴けず、小さな声で「みゅうみゅう」と鳴いているだけです。目も開いていないので、自分たちがどういう状況にいるのか分かってもいないでしょう。
そんな三匹を見つめる鬼ババアの目はとても優しいものでした。
マルはこの街での鬼ババアの評判が悪いことを気にしていましたが、当の本人は気にするでもなく、逆に楽しんでいるようにも見えたので、これまであまり手を出すことはなかったのですが、鬼ババアももう相当の年齢です。人間には寿命というものがありますから、おそらく後数年で鬼ババアはこの世界からいなくなるでしょう。鬼ババアだと誤解されたまま逝ってしまうのは、なんだか申し訳ない気持ちがしました。鬼ババアは本当はとても優しいおばあさんなのです。かといって、どうすれば鬼ババアの評判を良く出来るのかなんて、マルには見当もつきません。
松の木の枝でそんなことを考えていると、ドタバタと足音がしてケンタが戻ってきました。手には太った三毛猫を抱えています。
「鬼……じゃなくて、おばあちゃん、これがミーコです。子猫たちのお母さんです」
鬼ババアはミーコを受け取ると、先程の籐のカゴの中へ入れました。ミーコも心配していたのでしょう。三匹の子猫がここにいたのだという安心感からか、ミーコはかわるがわる子猫を舐め、自分が横たわると子猫におっぱいを与え始めました。子猫たちもおなかが空いていたのでしょう。三匹はミーコのおっぱいに吸い付いて離れません。
「これでしばらくは大丈夫じゃな」
鬼ババアが言うと、ケンタがペコリと頭を下げました。
「おばあさん、ありがとうございます。僕一人では子猫たちを助けてあげられませんでした。それで、あの……」
歯切れの悪いケンタの様子を見て、鬼ババアは微かに笑ったようでした。
「あたしゃこう見えても忙しいんだよ。特に夕方は、晩御飯の準備やらなんやらあるんだから。お前、学校が終わったらちゃんと世話をしに来るんだよ? あたしゃ、このカゴを貸してやるだけなんだから」
あーあー、もう少し素直に言えば「鬼ババア」も返上出来るのに。マルはそう思いながら、松の木の枝で苦笑しました。鬼ババアはなかなか素直になれないおばあさんなのです。
けれど、それを聞いたケンタの顔は輝き、それは嬉しそうな顔になりました。
「ありがとうございます! 僕、毎日ちゃんとお世話しに来ます。今日は帰りに家に一度帰って、ミーコのご飯を持ってきます。あと、トイレ用の砂とか食器とか……」
ケンタが言いかけると、鬼ババアはそれを遮りました。
「ご飯だけでいいよ。トイレも砂も十分ある。それは心配せんでいい。それより、お前、学校があるだろう? ほら、もう行った行った! いいかい? 学校は休むんじゃないよ? じゃなきゃ、あたしゃもう猫を預かったりはしないからね!」
鬼ババアの言葉に時計を見ると、もう時刻は八時になろうとしていました。
「うわっ! 遅刻しちゃう! おばあちゃん、じゃあお願いします!」
ケンタは大慌てで玄関へと飛びだして行きました。ガラリと派手な音が聞こえ、その後はしんと静けさが漂いました。
「さて、あたしも朝ごはんにするかねぇ。あ、そう言えば、あの子は朝ごはん食べたんだろうかねぇ?」
鬼ババアの呟きに、マルは心がほわんと温かくなるのを感じました。
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