第3話 鬼ばばあと子猫たち

 案の定、マルが松の木に座って足をブラブラさせていると、縁側に鬼ババアとケンタが出てきました。今日は天気がいいので、縁側は温かく気持ちが良いことでしょう。

 けれど、ケンタの顔は真っ青です。自分が何をされるのか不安でならないのでしょう。

 マルはおかしくなって、ついプフッと吹き出してしまいました。

 鬼ババアは、相変わらずぶっきらぼうな様子でケンタに座布団を持ってくると、そこに座るようにと言っているようです。ケンタは段ボールを抱えたまま、おとなしくその座布団へと座りました。そして鬼ババアから何かを言われた様子のケンタが、段ボールを開いてその中を鬼ババアに見せています。

 段ボールの中には何が入っているのだろう?

 マルがいる所からはよく見えませんでしたが、その中身を見るなり鬼ババアの額に青い筋が入り「馬鹿もん!」と怒鳴る声が聞こえました。ケンタは既に泣き出しそうです。

 鬼ババアは段ボールごとケンタから奪い取ると、その中から小さな小さな生き物を取り出しました。鬼ババアが中から生き物を取り出したことで、マルにも段ボールの中に何が入っていたのかが分かりました。段ボールに入っていたのは、まだ生まれて間もない子猫だったのです。子猫は全部で三匹いるようでした。

「まだこんなに小さな子猫を公園に捨てようだなんて、お前はなんてひどい子なんだ!」

 鬼ババアの声が大きくなったので、マルにも二人の会話が自然と聞こえてきました。鬼ババアの声から察するに、ケンタは子猫を公園に捨てようとしていたようです。

「まだ目も開いてないじゃないか! このままじゃ数時間でこの子たちは死んじまうよ。お前、この子たちをどうしたんだい?」

 ケンタの目からはとうとう涙が溢れ出し、嗚咽を漏らしながら答えます。

「僕んちのミーコが一昨日産んだんです。だけど、パパもママもそんなに猫ばっかり飼えないって言って……。それで昨日の夜、僕、聞いちゃったんです。僕と妹が学校に行っている間に、子猫は保健所に連れて行こうって。保健所に連れて行かれたら殺されちゃうんでしょ? 僕、そんなの絶対嫌だ! だから、誰かもらってくれないかと思って、友だちにも一生懸命声をかけたんだけど、どうしてももらってくれる人がいなくて……。だから、だから……」

 ケンタの嗚咽混じりの説明を聞くと、鬼ババアは納得したように頷きました。

「それで公園に置いて、誰か拾ってくれないかと思ったってことかい?」

 ケンタは鬼ババアの声色が優しくなったのを感じ、少し驚きましたが、素直に頷きました。

「なるほどねぇ。でもね、この子らはまだ親猫のおっぱいが必要な時期だからね。このままじゃ持って数時間というところだね」

 鬼ババアの言葉にケンタは絶句し、声を上げて泣き出しました。

「ええい! 男だろ! そんなに泣いてどうする!」

 鬼ババアがぴしゃりと言うと、ケンタはひっくひっくと喉を鳴らしながらも、なんとか声を上げるのだけは我慢しました。

「お前は平井んとこの孫だろ?」

 ケンタは鬼ババアが自分の苗字を知っていたことにも驚きましたが、やっぱり素直に頷きました。

「今は……七時過ぎか。よし、お前の家とこの家までを往復で二十分あれば戻ってこれるかい?」

 ケンタは意味が分からないままではありましたが、こくん! と頷きました。

「よし。それなら、そのミーコとやらも連れといで。この子猫にはまだ親猫が必要だからね。おっぱいをあげなきゃ死んじまう。哺乳瓶で育てることも出来ないわけじゃないが、母猫がいるんならそっちがいい。それに今頃、ミーコとやらも子猫を探しているだろうよ」

 ケンタは、はっとしました。子猫のことを助けたくて、ミーコのことを考えていなかったことに気づいたのです。

「僕、ダッシュで行ってきます。ミーコは家の中にいると思うから、すぐに連れてきます。でも、鬼……じゃなくて、おばあちゃん、子猫のこと……?」

 ケンタは自分がいない間に鬼ババアが子猫を食べてしまうのではないかと心配になったのです。

「鬼ババアだからって、猫なんて食べやしないよ!」

 鬼ババアの言葉に、ケンタは大きく頷くと「すぐに戻ります!」と叫んで、鬼ババアの家を飛び出して行きました。


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