第2話 天使のマルのお仕事

 ケンタが困惑しながら鬼ババアに引きずられていく様子に気づいたマルは、空から二人の様子を伺い、羽音をさせないように気を付けながら二人の後を付いて行きました。もちろん二人には、マルが見えることはないのですが、用心に越したことはありません。

 人間のみなさんは知らないと思うのですが、私たち人間が住んでいる街には、それぞれにその街を守る天使がいます。それぞれの街の上に浮かぶ雲の上に住んでいて、その街で起きる事件やトラブル。それらを人間に気づかれないよう解決へ導くことが、街を守る天使の仕事でした。

 ですから、今朝のこの二人のただならぬ様子に、マルは何事かと心配になって二人の後を付けていたのです。マルの街で起きる事件は、全てマルが解決へと導かねばなりません。それが天使としてマルが神様から与えられた大事な仕事なのです。

 そうは言っても、マルは困惑しているケンタを見ながら、そう心配はしていませんでした。この街では鬼ババアと呼ばれているおばあさんですが、マルはおばあさんの本当の姿を知っていたからです。

 天使としてはまだまだひよっこのマルですが、そんなマルでも、もう100年ほどはこの街を守っています。つまり、鬼ババアと呼ばれているおばあさんの事も、おばあさんが小さな頃からマルはおばあさんのことも街のことも見守ってきたのです。ですから、鬼ババアと呼ばれるおばあさんの性格や家族のこと、些細な癖まで、マルはよく知っていました。

 確かに昔よりは年を取り、顔は皺だらけ。髪の毛も真っ白になってしまいましたが、彼女の心根が優しいことはよく知っています。

 今日のこの出来事も、何か理由があるからに違いありません。

 マルはおばあさんの家の庭へと先回りをすると、おばあさんがよく日向ぼっこをする縁側の方へと回りました。おばあさんとケンタは、必ずそこへ来るだろうと思ったからです。

 おばあさんの家はとても広く、庭には鯉が泳ぐ池があり、あちこちに大きな石が置かれ、手入れの行き届いた立派な庭がありました。その中で、縁側を見渡すのに絶好の位置にある松の木に座ると、マルは二人が縁側へ出てくるのを待ちました。

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