第10話

 マルは神妙な顔をして、神様の前に跪いていました。

 神様はひどく怒っていらっしゃるように見えます。

「マル、お前は規則を破ったであろう?」

 ノンちゃんが空へと帰った後、マルは神様のお使いである流れ星から「神様の元に来るように」という言伝をもらいました。

 禁止されていると分かっていながら、星の子を人間の姿にしてしまったこと。それが神様に分かってしまったに違いありません。

 マルは、天使を辞めさせられる覚悟を決めて、久しぶりに天使が住む国へと昇ってきました。

 神様はふかふかの雲のソファに座り、金色の長い杖を振りかざし、マルへと質問を続けられます。

「規則を破ったと分かっているのだな?」

 マルは顔を上げ、神様を見つめて答えました。

「規則を破ったことへの言い訳はしません。街の平和や、人々の心を守るためには、あの方法しかありませんでした。僕は間違ってないと思っています。でも、それが神様のお怒りに触れるのでしたら、僕はどんな罰をも受けるつもりでいます」

 マルが答えた後、しばらく静かな空気が漂いました。マルは、どんな罰が待っているのかと内心びくびくしながら俯き、神様の言葉を待ちました。

「マル」

 それまでとは打って変わった優しい声が聞こえ、マルはおそるおそる顔を上げました。

 神様はマルを見下ろし、楽しそうに笑っておられました。

「ははははは。お前も天使らしくなったものだ。街を守るためなら、と言ったな? その覚悟が生まれたことこそ、本物の天使になった証だ!」

 マルはぽかんと神様を見つめてしまいました。

 怒られるとばかり思っていたのに、神様はとても楽しそうです。

「わしもそう暇ではないのでな。お前たち天使のことを逐一見張ってなどいられないのだ。そこで、お前の仲間である、シカク、サンカク、ダイケイの3人にも尋ねてみたのだが……。3人とも『マルは素晴らしい天使です』と答えるだけで、規則を破ったかどうかについては答えぬのだ」

 マルは、シカクさんたちの笑顔を思い浮かべ、幸せな気持ちになりました。

「マル、お前はいい仲間を持ったな」

 神様の声に、マルは大きく頷きました。

「これまでと同様に、しっかり街を守る仕事に励みなさい。それから……」

 神様がマルの後ろの方に目を向け、手招きしました。マルの後ろの方から、小さな天使がやってきて、神様の隣りにちょこんと座りました。マルとは違い、まだ幼い赤ちゃん天使です。

「この子をケーキ屋の夫婦の元へ送ることに決めた。お前の街に入る子だ。面倒を見てやってくれ」

 マルは赤ちゃん天使を見て、ますます笑顔になりました。

 パパとママは、本当のパパとママになれるのです。

「神様、ありがとうございます! パパとママ、きっと喜ぶと思います。あの、それで、ノンちゃん……この間の星の子は……?」

 聞いていいものかどうか分かりませんでしたが、マルは気になっていた星の子のことを尋ねました。

「あの子は相変わらず慌てん坊なのでな、もう少し修行をさせてから地上に下すことにする。心配せんでも大丈夫じゃ」

 マルはホッとしました。

 パパとママ、それにノンちゃんも、本当の笑顔を迎える日は近いようです。

 マルは神様にお辞儀をすると、天使の国から飛び立ちました。


 マルが守る街が見えてきました。マルが住む雲の上に、サンカクさん、シカクさん、ダイケイさんの姿が見えます。三人はきっとマルのことを心配して来てくれたに違いありません。

 マルは神様からのお話を早く三人に聞かせてあげたくて、その白い羽を大きく羽ばたかせました。


 

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天使のマルが守る街~星の子ちゃん 恵瑠 @eruneko0629

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