第5話

 「それで? どうしてあの家にいたの?」

 雲の上にもどると、マルはすぐに星の子にたずねました。

 星の子は大人しくマルのそばに降りると、ちかちかと淡い光を放ちながら答えました。

「僕、あのおうちの子供になるはずだったんです」

 直接会ったのは初めてでしたが、マルは神様やシカクさんから『星の子』の存在を聞いたことがありました。

 『星の子』とは、一度地上に降り、人間のおなかに宿ったものの、さまざまな理由で人間の子供として生まれることが出来なかった子供のことです。人間になれなかった子供は、星の子となり、どんな理由があろうとも、神様の元へ帰らなければならないという決まりです。

「君の気持ちは分かるけど、神様の元に帰るという決まりがあるだろう?」

 マルは諭すように、静かに言いました。

「分かってます。でも、ママは病気になってしまって、毎日毎日泣いているんです。僕が、僕が背中の羽を外すのを忘れなかったら、こんなことにはならなかったのに……」

 星の子はとても悲しそうでした。自分を責めているのが分かり、マルは、胸がきゅうう、となるのを感じました。

 神様の元から地上に降りてくる子供は、空の上で順番待ちをしていた天使です。神様のお手伝いをし、お利口にできた天使から、順番に地上へ降りることが許されます。その際、天使だったことが分からないように、みんな、背中の羽を外して地上へ降りるのです。

 でも、この星の子は、きっと慌てん坊だったのでしょう。うっかり羽を外すのを忘れ、人間として生まれることが出来なかったのです。

 星の子の話しを聞いて、あの家の奥さんが病気なのは、赤ちゃんが星の子になってしまったことを悲しんでいるからなのだ。と、マルは思いました。

「パパは、ママの気持ちが落ち着くようにって、ママの心が癒せるようにって、緑が多いこの街へ引っ越してきたんです。前の街でのお店は繁盛してたのに、そのお店をたたんで、この街で一から始めるつもりで来たんです」

 ダンナさんは、奥さんのことがとても大事なのでしょう。仕事を辞めてまでこの街に引っ越してきたというのは、相当の覚悟をされたに違いありません。

「でも、ママはやっぱり泣いています」

 星の子は悲しそうに言いました。

「僕、神様との約束を破っているから、時間がないんです。このまま空に戻らなかったら、僕は消えてしまうしかありません。でも、どうしてもママを泣かせたまま空に帰ることが出来ないんです」

 星の子はそう言って、きらきら光る涙をこぼしました。

「泣かないで」

 明け方に囁いていたのは、星の子が神様との約束を破ってまで囁いていた願いでした。

 マルは、街を守る天使です。

 星の子のことも、ママのことも、もちろんパパのことも。みんなを笑顔にして、星の子を空に帰してあげたい。マルは、そう考えました。

 

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