第3話

 『声』は小さく、気を付けていないとすぐに聞こえなくなってしまいます。

 マルは神経を集中して、『声』へと耳を澄ませました。

「泣かないで。……泣かないで」

 声は続いています。

 マルは、その『声』を頼りに、ふわふわと街の上を飛んで行きました。『声』が聞こえなくなると、マルは空の上で立ち止まり、また耳をそばだて、『声』が聞こえてくるのを待つのです。

 そうしてようやく『声』が聞こえてくる場所を突き止めました。 

 マルが守る街の外れに建っている、オレンジ色の屋根の家。そこは、家のまわりをぐるりと木々が取り囲んでいて、外からは中が見えにくいようになっています。この家に、つい最近、若い夫婦が引越してきたことをマルは知っていました。

 街へ引っ越してくる新しい住人は、マルが守るべき相手です。

 ですから、この家の旦那さんが、家から5分ほどのところでケーキ屋さんを開いたことも、奥さんが病気でふせっていることもチェック済みでした。

 もしかして、泣いているのは奥さんかな? 

 マルはそう思いましたが、どうしても「泣かないで」という『声』が、二人の『声』と一致するとは思えません。

 マルは不思議に思いながら、2階にあるテラスへと降り立ちました。

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