第9話
トーヤが目覚めたとき、キッチンから音が聞こえてくるのに気づきました。ずっと前、シュウヤが元気だった頃の朝のように。
トーヤはベッドから急いで起き上がると、ドアを開けました。すぐにお味噌汁とお魚が焼ける香ばしい匂いがしました。
トーヤが起きたことに気付いて、テーブルで新聞を読んでいたパパが振り返り「トーヤ、おはよう!」と声をかけてきました。
トーヤは目をこすりました。夢ではないかと思ったのです。
キッチンから、ママがお盆にご飯とお味噌汁をよそったお碗をのせて歩いてきました。
「おはよう。トーヤ、ご飯にしましょう」
ママもパパも、とても穏やかな顔をしていました。
トーヤは、信じられない顔で自分の椅子に座りましたが、なんだか落ち着かず、ついついパパとママの顔を見比べてしまいます。
「トーヤ、シュウヤが元気になれそうなの。今までいっぱい我慢させてごめんね」
ママの声に、トーヤはクビを振りました。
トーヤは、自分の心がほわほわと温かくなるのが分かりました。
「シュウヤが退院したら、元の街に戻ろう? な?」
パパが言います。
トーヤはますます夢ではないかと思いました。
「シュウヤが退院したら、4人でどこかに旅行に行くのもいいな」
「そうね。キャンプに行ったり、バーベキューをしたり。今まで出来なかったことをたくさんしましょう。トーヤはどう? 何がしたい?」
ママが尋ねると、トーヤが答えます。
「僕は何でもいい。パパとママとシュウヤが一緒なら!」
トーヤの声に、ママが涙ぐむのが分かりました。
「トーヤの声……久しぶりに聞いたわ。ごめんね、トーヤ。ママもパパも忙しさにかまけて、あなたのことほったらかしにしてしまったわ」
「お兄ちゃんだからって、我慢ばかりさせてしまった」
パパも反省しているようです。
「いいんだ。シュウヤのためだったんだから。僕も分かってたんだから、頑張らなきゃいけなかったんだ。それに、ちゃんとパパやママに『寂しい』って、言えばよかったんだ」
マルにもトーヤの声が聞こえてきました。
トーヤの声は、とてもきれいな声です。昨日、涙とともに吐き出してしまったからか、トーヤの顔も晴れ晴れとしています。
「なんだか夢みたいで、僕、信じられないな。昨日、天使さまの夢を見たんだけど、あの天使さまのおかげなのかな」
トーヤの言葉に、ヒイラギの木の上のマルは微笑みました。
ママの声が続きます。
「トーヤのところへも来てくれたの? シュウヤも天使さまが来てくれたって言ってたわ。もしかして、本当に天使さまが来てくれたのかしら?」
「そうかもしれないね。だって、ほら」
パパとママ、トーヤが楽しくおしゃべりするリビングのテーブルの上には、シュウヤの病室に、マルが届けた大きな真っ白の羽が乗せられていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます