第7話
マルの目の前で、トーヤの背が大きく膨らんでいきました。その膨らんだ背では、小さな黒い泡がポコポコと煮えたぎり、真っ黒な風船のようなものが天井へ向かって浮かんでいきます。それは途切れることなく、次々にトーヤの背から生まれ、いつのまにか真っ黒なカタマリが、トーヤの部屋の天井をいっぱいにしてしまいました。
もしかしたら、これが『爆発』の前兆なのかもしれない。
マルは、どうしたらいいのかを必死で考えました。
トーヤは低く呻いていました。誰もいないというのに、泣き声を聞かれたくないのでしょう。マルはぎゅっと心臓を掴まれるような感覚を覚えました。
トーヤはまだ6年生です。大きく見えても、まだまだ子供です。そのトーヤが、喚くことも、叫ぶこともせず、自分の中にこんなにも真っ黒なものを抱えて生きているのです。こんなにも黒いカタマリを抱えていたら、爆発もするでしょう。
マルは自分の背から、一番大きな羽を1本抜き取ると、天井をひしめく黒いカタマリをちょん! と突きました。黒いカタマリは音もなく割れ、代わりに『声』が聞こえてきました。
「なんで僕ばっかり我慢しなきゃならないんだ!」
その『声』に驚いて、ベッドにうつぶせになっていたトーヤが振り向きました。天使のマルがいること。天井いっぱいに浮かぶ風船が見えたことで、トーヤは目を見張りました。マルは構わず、次々に黒いカタマリを割っていきました。
「一人でご飯を食べるのはもうイヤだよ!」
「パパやママと話しをしたいよ!」
「もう引っ越しはイヤだよ!」
次々に聞こえてくる『声』に、トーヤが困惑の声で言いました。
「やめて! やめて!」
そうして両手で耳を塞ぎ、ぎゅっと目を瞑り、体を小さく丸めてしまいました。こんなになるまで我慢をしているというのに、トーヤはまだ我慢をしようとしているのです。
マルは、トーヤの体を抱きしめました。羽でくるむように抱きしめました。
「トーヤ、大丈夫だよ。君は十分頑張ってる。ボクの前では我慢なんてしなくていいんだよ?」
マルが言うと、トーヤが恐る恐る顔を上げました。その目には涙が光っています。
「誰も悪くないよ。パパもママもトーヤも、もちろんシュウヤも。みんな、悪くない。ちょっとすれ違っちゃっただけだよ。ね?」
そう言うと、トーヤはマルに抱きついてきて、さめざめと泣きました。泣きながらも、トーヤが声を発することはなく、泣きつかれたトーヤはそのまま眠ってしまいました。けれど『泣いた』おかげか、トーヤの背の膨らみは収まり、黒いカタマリも出なくなりました。
でも、まだ解決したわけではありません。
マルは、本当の意味でトーヤを助けるために、黒いカタマリを突いた羽を持つと、トーヤの部屋から飛び立ちました。
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