第一話

 帝剣に与えられる任務は、“混沌核”イービルピースを埋め込み魔物を変異させた生物兵器――キメラの討伐と、イービルピースを取り込んだあるいは埋め込まれた人外――ヴァンプやヴァンパイアの討伐がメインとなる。


 “いずれも邪法によって生まれた化け物である”と説明を受けた。


 膨大魔力を有しており魔力の摂取で生きている。血は魔力補給の媒介であった。再生には魔力を使うので魔力を削りきるか、イービルピースを破壊する事で倒せるらしい。


 領主や領兵の手に余る化け物が出現した場合、高ランクの冒険者がいれば協力を求める。しかし、その時に高ランク冒険者が領内に居るとは限らず、冒険者は自由人――


 ――高額な報奨金が出されているが、命を掛ける依頼はパーティの意見が割れ、解散の危機に陥りやすい。そしてキメラが狩場を荒らす為、稼げなくなった場所からは去って行くのが普通の冒険者である。


 少々口の悪い貴族は、そのような冒険者を根無し草や放浪者と呼ぶ。


 私が期待されているのは、斬り傷を与えた時に凍結させ、敵に再生させない剣を会得する事だ。


 二刀流は本来、アベルの様に筋力がある者が使う剣技であった。最もアベルは大剣を使う。それもビル鉱石と呼ばれる魔力が通らない途轍もなく頑丈で重い鉱石で造られたビルシリーズの大剣を――彼らしい武器である。


 私が剣聖様から賜った剣は――刀で合った。銘は空宇ソラウと聞いた。刃の部分が透き通る様な蒼を帯びた刀身で私の目利きでは、何の鉱石が使われたか解らなかった。


 この刀との親和性は“良すぎる”みたいで、少し恐くなるほどに魔力が良く通った。


 お師匠様に刀の扱いを少し教わった後はアベルから教わっている。


 アベルは、大よその武器を扱えるらしい。


「それだけ刀が扱えるのに使わないんですか?」


「任務では使わないが技術を高める訓練や決闘の時に気分で使う」


 試合じゃなくて決闘って……。


「それもビルシリーズですよね? よく見つけましたね」


「商国トリステルの和都に立ち寄った時に道場破りをして貰った。刀の扱いはその時に分かった」


 武に恵まれた天賦をお持ちのようだ。


「アベルは、どうして帝剣になったんですか?」


「キメラに両親や村の人を殺され、より強くなろうと思った」


 私の憶測とは違う答えが……。


「あの……すいません」


「気にするな、謝ることはない。俺はそれで強くなった。ユアこそどうして帝剣になったんだ?」


「私の場合は、剣というよりは氷魔法の有用性を見い出されてだと思います。それまでは治癒師を目指していて、気付いたら帝剣を賜った感じです」


「そういえば、俺と違って門をぶっ壊して入って来てなかったな」


「それ、よく殺されませんでしたね……」


「いや、殺されかけた。執事とメイド達の連携も厄介だったが、ロイが存外に強かった」


「ここの執事とメイドって戦えるんですか?」


「見回りの騎士とかいないだろ? そういう事だ。大規模な任務だと一緒に行動する事もある。目星い人材が居たらユアも勧誘するんだぞ」


「ポンコツなメイドがいるなとは思ってたんですが、そういう事だったんですね」


 なんか妙に料理や皿を落とすメイドが居たのだ。


「あれでいて戦闘は一流だ。本人はメイドが本職がいいらしいから好きにさせている。ふらふらと重心を定めず身体の柔らかさを活かして予測不可能な動きをしてくる。興味があったら手合わせしてもらうといい。ただ、メイド以外の仕事を頼むときは金が要る」


「レイチェルはアベルが勧誘したんですか?」


「ああ。花嫁修業に来いと言って誘った」


「え⁉ 付き合ってるんですか?」


「別に付き合ってないぞ。どうしてそうなる? あんなんじゃ花嫁に行けないだろう」


 休憩していると噂のレイチェルが飲み物を乗せたカートを押して現れた。


「飲み物をお持ちしました」


 休憩席の間にカートが丁度入り、レイチェルはトレイを持たなかったので、何かを落とす事はなかった。


 しかし、変な事を聞いてしまったせいで気まずい。


「レイチェル、俺が花嫁修業に来いと言って誘ったのは覚えているか?」


 今、ここで聞くつもり⁉


「ええ、覚えておりますよ」


「ユアにその事を話したら、俺とレイチェルが付き合ってるのかと疑われているのだが」


「アベル様、端的に話し過ぎたのでは? 正確には“なら花嫁修業に来たらいい”です。ユア様、そんな心配そうにしなくても無新件なアベル様にそういう感情を抱いていないのでご安心ください」


 レイチェルが微笑みを見せる。


「もう――修羅場が始まるかと思ったよ」


「逆の立場なら私もハラハラしたでしょうね」


 不服そうにアベルが、


「俺は違うと言ったぞ」


「アベル様の頭が信用されてないのでは?」


「ユア、そうなのか?」


「ええっと――よし、私は訓練を再開します!」


 ――果実水を飲み干し、私は訓練に打ち込むのであった。


 ♢ ♢ ♢


 一ヵ月ほど修行を積まされ――初任務が告げられた。明日アベルと共にリーベラ領に出現したイビルを討伐する事となった。


 剣聖宮殿には大浴場と露天風呂が備えられており、私は露天風呂に浸かっていた。


 丘上から星空と地上の灯を眺める贅沢、高い地位に就いたという実感が湧く。


 地位が高い人が高い所に住むのは心構えを得る為かな――でも、二世で最初から地位の高い人はいつもの光景だから意味ないや。


 獅子の子落としを最初に言った貴族は、どこまで先の光景が見えていたのやら。


 湯に浮く花びらを手に取りながら思考に耽っていた。


 露天風呂は魔力消費の疲労を回復する月光花が浮かべられており、月明りに反応して効能が上昇する花である。


 私の水属性は怪我を負っても持ち直す事ができる。お師匠様は光属性で万能型で、セシルは雷属性で反応速度を上げる強化型。アベルは火属性で筋力を高める強化型である。


 剣を交える瞬間に地面から氷を迫らせたり、剣を交えた時に相手の得物に氷をくっつける絡めてもお師匠様は気に入ったようだが、一番お気に召したのは身体が耐えれる限界を超えての“リミッター外し”であった。


 鬼畜師匠との訓練では何度も使わされるハメになった――


 私は負けず嫌いなので武芸大会に出たからには負けたくなかったのだ。決勝で当たった侯爵家のカイン=ラグダイルが強かったので一度使用した。帝剣候補として名が挙がっていたので、そのうち同僚になるかもしれない。


 近接戦が苦手な者は魔術師になるが、それだと帝国では上には上がれない。宮廷魔術師になるにも近距離戦の技能を持つ必要があった。


 結局のところモノを遠くに飛ばすにはそれだけ力が必要になり、それを至近距離で撃ち込んだ方が威力が出るのだ。遠距離の魔法の攻防では受け手が魔力消費量で優位となる。


 故に得物の長さから魔法と組み合わせて最強なのは剣と定めた帝国では、近距離戦ができて魔力量の高い者が尊ばれる。


 お師匠様とセシルは、訓練で限界突破を使っても気にする事なく相手をしてくれてる。しかし、アベルには『ユアのその戦い方は好かない』と言われた。


 また手合わせしてもらうには、任務で実力を認めさせるしかない。

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