ディエロゴの正体

「チサちゃん、危ないよ!」

「大丈夫。ダイキなら任せられる」


 チサちゃんは、ボクを信頼しきっているようだ。


「わかった。行くよ!」


 ボクは、チサちゃんを抱え上げた。


「せーの!」


 ふわっと、チサちゃんが宙を舞う。

 ヨアンさんとククちゃんが、驚きの表情を見せる。

 その間に、ボクは減速した。反対側の車線へ向かう。

 チサちゃんの手が、ククちゃんの背に触れた。

 ボクは、反対車線に並走してチサちゃんを受け止める。


 その直後、ボクとヨアンさんのバイクはゴールラインを割った。


 ゆっくりと減速して、ボクたちはバイクを止める。

 同時に、ヨアンさんたちもバイクを停車した。


「あー。負けましたぁ」


 地べたに寝転がって、ヨアンさんがため息をつく。話し方も、いつもの調子に戻っていた。


「決戦はおそらくイクミさんでしょう。その前に、我々の魔力をお分けします。ヨアン様」

「はい。それっ」


 ククちゃんとヨアンさんが、テーブルとコーヒーのセットを用意する。イクミちゃんとの戦いの前に、ブレイクタイムにしようとなる。


「本気モードになったら、勝てると思ったんですが」


 とはいえ、ボクはこのヨアンさんの方がいいな。


「ダイキさんとは、一度本気で戦いたかったのです」


 ヨアンさんが、ククちゃんを抱き上げた。


「ボクと?」

「はい。これまでの玉座とは、まったく印象の違う方でしたので」


 そうだったのか。みんなから言われるなぁ。


「すごい試合でした。もう悔いはありません」

「はい。ごちそうさまでした」


 ククちゃんも、チサちゃんと握手をする。


「楽しかったですわ」

「本気になったら、なんでも楽しい」

「そうですわね。この楽しさを、あのイクミさんも気づければいいんですが」

「なんとかする」


 チサちゃんは、決意を新たにしたようだ。


「ダイキさん、どうかイクミさんに勝ってくだだい。あと、邪神ラヴクラホテップにも」

「我がライバルのチサ、ダイキさん、ごきげんよう」


 ヨアンさんとククちゃんが、手を振る。


「ありがとうございます。行ってきます」


 ボクは、別れを告げ、最後の扉を開く。




 赤茶色い扉の先には、イクミちゃんが立っていた。

 隣には、ディエロゴもいる。相変わらず全身がヨロイ姿で、素顔が見えない。


「やっぱり、あんたが最後の相手だって思ってたよ」

「さすが、我が別の世界線だけある」


 イクミちゃんとディエロゴが、もったいぶった口調で語る。


「別の世界線って?」

「まだ、わからない。ワタシは別の世界線にいるチサ・ス・ギル」

「キミが、チサちゃんだって!?」

「そう。ワタシは『チサが勇者だった可能性の世界線』からきたチサ。そして……」


 ディエロゴが、カブトを脱ぐ。


「え、ボク!?」



 そこにいたのは、ボクとまったく同じ顔をした男がいた。



「オレは、別世界線のダイキ・オサナイだ」

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