ククとヨアンの思い

 ボクたちが、ヨアンさんを焚き付けていた。

 のほほんと、なんとなく魔王を目指していたつもりだったんだけど。


「ダイキさん、最後の勝負ですわ! 誇らしく戦いましょう!」

「うん、ボクも負けないよ」


 抜きつ抜かれつの、デッドヒートを繰り広げる。

 しかし、なかなかククちゃんやヨアンさんにボディタッチできない。

 バランスを崩しかねない微妙な差で、ヨアンさんはバイクを操る。


 

~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 



「クク様、たまにはこういうのもいいな!」


 バイクをかっ飛ばしながら、ヨアンはククに語りかけた。


「レースより、もっと落ち着いたドライブがいいですわ」


 ギュッと、ククが腰を抱く手に力を入れていくる。


「はは。それもそうか」


 思えば、ククとこうして二人でどこかへ行くなんてことは、めったにない。日光が苦手なククのため、ほぼ引きこもりに近かった。


「じゃあ今度は、海に近いところで走ろうぜ」

「約束ですよ」

「ああ。でもまずは」


 横の魔王コンビを見る。


「魔王退治からだな」


 ヨアンは、アクセルを全開にした。


「やっぱ強いな。全開で引き剥がしているってのに、すぐ追いついてきやがる」


 これまで、ヨアンは他の魔王ともレースをしたことがある。

 足元に転がっていた天使たちも、ヨアンにケンカを挑んできた者たちだ。

 何度も勝負を挑まれては、返り討ちにしてきた。

 負けた彼らから力を吸収して、ヨアンはさらに力を得ている。


 ここまで手応えのある相手と巡り会えたことは、今まで一度たりともない。


 恐れとともに、興奮もしてきた。彼らなら、自分の限界まで引き出してくれるのではないかと。


「わたくしは、ちゃんと玉座をやれているでしょうか、ヨアンお嬢様?」


 押され始めて弱気になっているのか、ククが尋ねてくる。


「やれているとかいないとかじゃない。私たちで、最高の魔王と玉座になるんだよ」

「……はい、そうですよね!」


 ククを困らせているのは、ヨアン自身の心が弱いからだ。

 だから、結果を出す。



~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 

 直線に入ったところで、ようやくボクたちは並んだ。


「最後の勝負だ。飛ばすぜ!」


 ここに来て、またもヨアンさんが加速した。加速用の魔力も、残り少ないはずなのに。どこで温存する余裕があったというのか。


 ヨアンさんたちにタッチできなければ、ボクたちは負けてしまう。


「見たかハメルカバーッ! テメエの力なんざ借りなくても、私はここまでできるんだ!」


 勝利を確信してか、ヨアンさんが勝ち誇る。


 ボクたちがつけ入るスキは、この油断しているときだ。



「ダイキ。わたしを向こうへ放り投げて」

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