勇者 ネウロータ

 ボクたちは、次の階層にたどり着いた。

 そこは、赤い海が波打つ海岸だ。

 海水の勢いは凄まじく、岩を削っている。


 待ち受けていたのは、いつぞやの勇者だった。ネウロータくんの領域を侵食しに来た、あの勇者である。たしか名前は、【エレクチオン】だったっけ。


「……違う!」


 ボクはチサちゃんを抱き上げて、跳躍した。


 さっきまでボクらがいた地点に、矢が突き刺さる。勇者の側に仕える、魔獣が放ったのだ。


 この矢は……それに、あの勇者の姿は!


「ネウロータくんに、トシコさんだ!」


 かつての勇者エレクチオンと同じように、ネウロータくんが不気味な笑みを携えている。


 勇者が長剣を、チサちゃんへ振るう。


 ボクも、スコップで対抗する。


 コドモとは思えないほど、勇者のパワーが強い。

 至近距離から、勇者はアッパー気味の切り払いへ。そのまま袈裟斬りへと移行してくる。


「アークサンダー」


 チサちゃんが、ボクのスコップを撫でた。ボクの武器に、チサちゃんの電撃魔法が行き渡る。


「いっけーッ!」


 ボクは、電撃を帯びたスコップを打ち下ろす。


 そのタイミングで、巨大な矢が飛んできた。大きさは、まるで丸太のようだ。勇者に、攻撃のスキを与えるつもりで放ったのだろう。


 ボクは矢を撃ち落とすも、懐に飛び込まれた。このままではチサちゃんの身体がガラ空きに。


「まずい、チサちゃん!」

「問題ない」


 すでにチサちゃんは、次の攻撃を用意していた。僕おお腹にいたまま、身体を旋回させる。


「マミの、旋風脚!」


 足に炎の魔法をかけて、チサちゃんはボクの足を踏みしめる。勇者の顔面へ、回し蹴りを浴びせた。


 しかし、大したダメージは与えられない。勇者はインパクトの瞬間、大きく身体を反らしていた。そのままバク転を繰り返して、玉座の元に。


 そのバックには、キュラちゃん……じゃない。

 トシコさんが、人魚の姿になっていた。

 人魚というには身体が大きく、下半身もクジラの背びれである。怪物化したキュラちゃんより、一回りも大きい。

 ヤリのような大型の弓矢を構えていた。イシユミとか、バリスタとか形容したほうがいいかもしれない。


 もし、ネウロータくんが魔王クラスに成長したら、ああなっていたのか。


「人間の玉座まで、モンスターにしてしまうなんて」

「あの姿は、白鯨イド」


【白鯨 イド】って、ネウロータくんの父親だって言っていたっけ。魔王に従う四代聖獣の一体だよね。


「ダイキ、あれもネウロータじゃない。本気で戦わないと」

「うん。そうだね」


 破城槌のような大きさの矢を、トシコさんが構えた。大きく身体を反らしながら、力をためている。


 白鯨イドの矢に、勇者が飛び乗った。


 そのまま、イドは矢を放つ。


 勇者を乗せた矢が、猛烈な速度で迫った。


「ダイキ、カウンター」

「おう!」


 ためらってはダメだ。



「うおおおおお!」



 そう、あんなふうに……って!?



 勇者の横っ面に、ネウロータくんの飛び蹴りがめり込んだ。

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