据え膳食わぬは……

 セイさんの言葉が物々しい。


 物騒な発言に、ボクは気持ちが引き締まる。


「お腹が膨れたら性欲を満たせ」といった、軽いノリではない。

「ここを抜ければ、ダンジョンも終盤です。が、攻撃も激しくなってきます。チサ様と言えど、最悪命を落とすかも知れません。なので、悔いの無きよう」

「そんなに厳しい戦いになるんですか?」

「これまで、ご経験されたことのない戦いが、待ち構えております」


 百戦錬磨のセイさんに、そこまで言わせるとは。


 いつ死んでもいいように、契りを交わしておけ、なんて。


 魔王の提供するバトルは、だいたいコミカルさが含まれていた。なんとなく、乗り越えられるような。


 今回は、そんな調子ではないのだろう。


「雰囲気が出ないようでしたら、また例のガスを発動しますが」

「結構ですっ」


 あれは刺激が強すぎる。お互いが同意できないままに、行為に及んでしまいそうだ。


「相手の気持を思いやらない、独りよがりなエッチになりそうなので」

「そうですね。実際そうなりますから」


 どうせするなら、切羽詰まってないほうがいい。 


 据え膳食わぬは男の恥、というけれど。


「寝ようか、チサちゃん」

「うん」


 普段より、チサちゃんはグッタリしている。横になると、すぐに寝てしまった。


「ムリもありません。言葉にはしていませんでしたが、チサ様はずっと……その、軽くオーガズムに達しっぱなしだったので」


 ボクと同じように性的な情報を送り込まれ、サキュバスの呪いを受けて、ムラムラしっぱなしだったという。


「ですが、大きい波がまったくこない、いわゆる寸止め状態を維持させられていました。脱出したことによって、興奮の糸が切れてしまったのでしょう」

「……なるほど」

「今は、ダイキ様の腕に抱かれているだけでも、満足げです。大切になさってください」

「はい。ではおやすみなさい」


 ボクが横になると、部屋の明かりがひとりでに消えた。


 みんなは、どうしているだろうか? 最後の部屋が意外と難所だったからな。みんな淫らになっちゃったのだろうか?


 他の子たちを考えても仕方ない。どうせ、旅を続けていたら出会うんだ。


 ボクは眠りにつく。


 翌朝、ボクたちはセイさんの作った朝食を食べて、最後のエリアへ。


「ここからは迷宮はございません。ボスフロアのみです」


 セイさんが、最後のフロアへ続く扉を開けてくれた。


「ごちそうさまでした」

「いってきます、セイ」


 チサちゃんが頭を下げると、セイさんは黙礼する。


 そこを抜けたら、あとは魔王ロイリさんと、最強の玉座である邪神ラヴクラホテプだけ。


 たどり着いたのは、赤黒いオーラが立ち込める広場である。


 目の前に、見覚えのあるシルエットが。


 そこにいたのは、猫耳のフードを頭にかぶった褐色の幼女だった。足元に、スフィンクスを従えている。


 あれが、ボスだろ……うっ!? あれは、どう見ても。


「……え、マミちゃん!?」




 ボクたちの前に立ちはだかるのは、マミちゃんとケイスさんだった。 

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