しばしの休息

 ラストダンジョンに入っても、チサちゃんの食欲は衰えない。


 メニューもシャレた料理ではなく、から揚げやハンバーグなどの食べ慣れたものばかり。子どもの舌に合わせてくれている。


 チサちゃんと初めて会った、ファミレスの食べ放題を思い出す。

 あの出会いがなければ、ボクはここにはいない。


 管理者がベルガなだけあって、お刺身も大量にあった。寒ブリとか、何年ぶりだろうな。


「カレーライス、おかわり」


 チサちゃんが、空になった皿をベルガに差し出す。


「はーい」


 お皿に、ベルガがゴハンとカレーを盛った。


「ボクもおかわりを」


 想像以上に消耗していたのだろう。ボクもおかわりをもらった。


「ダイキさんも、たくさん食べてくださいねー」

「ありがとう。こういう休憩所って、各所に設けられているの?」

「はい。我々は番人を勤めています」


 フロアごとに中継地点があって、休めるという。


「だいたい、こういう広大すぎるダンジョンって、相手を消耗させるために複雑化しているはずだよね?」


 お城って本来、相手に攻め込まれることを想定して設計されているはず。


 ギリギリのところまで追い詰めて、リソースがなくなったところを撃退する。


 もしくは逃げ道を確保するため、複雑化しているものでは。


「面ごとが広大なダンジョン化しているので、ワンフロア攻略するたび回復が適切だろうと、邪神ラヴクラホテップは申していました」


 あの邪神でも、考えてくれているのか。


「邪神によると、全力で戦わないと意味がない、とのことです」


 なるほど。彼らしい。


 チサちゃんを見ると、ずっとオニオンサーモンを食べている。


 ボクも、久しぶりに食べてみた。ああ、やっぱりこれはおいしい。


 食後、ボクたちは隣の温泉へ入る。


「オンコ、強かったね」

「本気で戦うことになるなんて」


 背中を流し合いながら、感想戦を始めた。


「となると、次もパーティメンバーの誰かなんだろうね」

「パパの力を与えられて洗脳されたって設定のはず。油断できない」

「本気で戦えるってところが、ポイントだよね」


 たいていは、「仲間を傷つけるわけにはいかない!」って展開なんだろう。


 けど、相手が相手だけに「倒さないとこちらがやられる」ってわかる。全力で戦いやすい。


「チサちゃんは、お父さんである邪神と戦えそう?」


 一緒にお湯に浸かりながら、ボクはチサちゃんに聞く。


「パパもママも、それを望んでいる」


 価値観がぜんぜん違うんだな。実の両親が相手でも、チサちゃんは容赦しない。


「チサちゃんは、魔王になったらどうするの?」

「ダイキのおヨメさんになる」

「あ、ありがとう。魔王としては、どう振る舞おうって考えているの?」

「みんなと仲良くできる世界を作る」


 チサちゃんの目標は、まったくブレていなかった。

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