決着、カリダカレース!

「罵声だけで、嵐を止めやがった」

 信じられないものを見る目で、ネウロータくんが呆然となる。


「あんなポテンシャルがあったのね? 感心したわ、ヨアン!」

 マミちゃんも、ヨアンさんの本当の力を知って驚いていた。


「でも、まだ何も終わっていない」

 チサちゃんが、杖を握りしめる。


 そうだ。嵐が過ぎ去っただけ。


 ここからは、言い訳無用のガチ勝負である。


「仕切り直しじゃ。ダイキ」

 ソーが、再び多脚戦車・ハメルカバーと化した。


「うん」と返し、ボクとチサちゃんはハチシャクに乗り込む。


 まだ濡れている髪を振り乱し、セーラさんがギターをかき鳴らす。

「よし。問題ない」

 チューニングを確認し、セーラさんはソーに発進を促した。


 ハチシャクのエンジンも申し分ない。


 二台は、同時にスタートする。 


 ボクら含め、レースに復帰できたメンバーはごく一部だ。

 

 他のドライバーは、まだ体勢を立て直せていない。それだけ激しい嵐だった。


 ラストは半周である。それでも長丁場だ。一瞬でさえ、永遠に感じる。


 多脚戦車が放つ電撃をかわした。ボクたちも爆弾で応戦する。


 じゅうたん型のコーナーへ突入した。


「おお⁉」

 ボクたちはじゅうたんへ渡らず、脇の壁を攻略した。

 柔らかいコースでは、減速せざるを得ない。しかし硬い路面があれば。


「考えたのう、ダイキ! じゃが、ここはカーブじゃ! 路面は途切れとる!」


「それはどうだろう?」

 ボクは、ハチシャクの足元に爆弾を置いた。正確には、自分の背面に。


 背後で盛大に、爆発が起きる。範囲にいるドライバーまで巻き込む厄介なアイテムだ。よって、ソーも遅れを取る。


 爆風を利用して、ボクは隣の壁に着地した。同じことを、三連続で繰り返す。


「そんな切り抜け方があったやとぉ⁉」

 大きく離されたソーが、驚愕している。


 このテクニックは、運転スキルを極振りしなければ思いつかなかった。


「お前、戦闘も全部捨てて、極振りしたな!」

 カーブを正攻法で切り抜け、ソーが追いついてくる。


「限界突破だ、ソーッ!」

「ハデにやったらぁ!」

 もはや生物ではない動きで、ソーが追いかけてきた。爆風を浴びたダメージなどものともせず。


 あとは直線のみ。


「これで一対一だ」

「おう、男同士の戦いじゃ!」


 ボクたちが、横一線になる。 


「それはどうでしょうか?」


 突然、ボクたちの間にセイさんが割り込む。さすが魔王に最も近いと言われた、最強のLOだ。


「なんじゃとぉ⁉」

「伝説のLO、セイ・ショガクか。相手にとって不足はない!」


 セーラさんのギターが激しくなる。


 わずかながら、ボクはハメルカバーに離されそうになった。


「ダイキ、大丈夫」

 チサちゃんが、ボクの手に自分の手を添える。


 ヨアンさんとククちゃんが、窓の向こうに見えた。ふたりとも、祈るようにボクたちを応援してくれている。



「自分のためじゃない。誰かのために走れるダイキは、最速」



 チサちゃんの言葉を受けて、ボクはハチシャクとひとつになった。


 ハンドル、アクセルを伝って、ボクはハチシャクと同化したのがわかる。比喩じゃない。本当に一体化したんだ。


 わずかながら、ルチャの残留思念に触れた。


「な、なんだって? あの娘を止めてくれ……ってどういう?」


 それを聞き、ボクはやはりトップにならなければと考える。 


 三人とも横一線状態になって、ゴールした。


 進行役のロイリさんが、チェッカーフラッグを振り回す。


 少し遅れて、マミちゃんとネウロータくんがゴールした。


 ボクは車を停める。もう、ぐったりだ。全身から汗が吹き出ている。


「ナイスファイトじゃ、ダイキ」


 ハメルカバーからロボット形態に戻ったソーが、握手を求めてきた。


 寝落ちしてしまいたい衝動を抑え込み、ボクは応じる。


「あなたも、よく燃料役を務めた。チサ殿」


「強かった。セーラ」

 チサちゃんは、セーラさんと握手していた。


『いやあスゲエナおい! まれに見る大嵐の中で繰り広げられた、世紀のレース! こいつは歴史に残るぜ!』


 ゼーゼマンが、場を盛り上げる。


 だが、判定が終わっていない。審議中のランプは、未だについたままだ。


『もうしばしまってくれよ。優勝は……』

 写真が表示される。


「あっ!」

 ボクは、声を上げた。


 わずか数ミリ差で、ボクたちはゴールを割っている。


「ダイキ・チサのペアだぜぇ!』


 やった。

 ボクはククちゃんとヨアンさん、二人を取り戻せたんだ。


「ありがとうございますわ!」

「ダイキさん!」

 両肩に、ククちゃんとヨアンさんが抱きついてくる。


「アハハ。よかったねふたりとも」

 これで文句ないだろ、ハメルカバーよ。ボクたちは実力で二人を自由にした。あとは、約束を果たすのみだ。


「ご心配には及びません」

 ボクが空を見上げていると、ヨアンさんの母親がボクの前に立って一礼をした。


「もう、神ハメルカバーの気配はありません。娘を助けてくださってありがとうございました」


「いえ。ヨアンさんのおかげでして」

「ヨアンには、亜神の力を分け与えておりましたので。ハメルカバーはそれを狙っていたのです」


 是が非でも亜神の力を手に入れて、再び支配者となろうとしていたらしい。


 往生際が悪かったわけだ。


 それにしても、ハチシャクから聞こえたあの声はなんだったんだろう?

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