友ではなく、戦友として

「ありがとう、セイさん」

 ボクが礼を言うと、セイさんは不敵に笑った。


「誤解なきよう。私の相手はダイキ様……あなたです!」

 セイさんが、エンジンを全開にする。


『こうも早く、リベンジの機会が得られるとはな!』

 ドレンもノリノリだ。


 抜きつ抜かれつの攻防戦が続く。


「そうはいかないわ!」

 マミちゃんのサイドカーが、ボクとセイさんの間に割って入る。


「チサ、ダイキ! ここは任せろ! お前たちは天使どもを!」


 ネウロータくんとマミちゃんで、セイさんを挟み込む形に。


 セイさんも振りほどこうとするが、二台はピッタリとくっついて離れない。


「ありがとうみんな! でも……」


 ここは、アクセルを全開にするチャンスである。

 

 なのにボクは、速度を上げられなかった。


「どうした。グズグズするな! 遠慮する必要なんて!」


 ボクは、ネウロータくんからの呼びかけに首を振る。


「いや、違うんだ。ボクは……みんなも相手にしたい!」


 ボクの一言で、全員の顔色が変わった。

 友達の表情が、ライバルのものへと。


「それは、全員まとめてレースする、ということで相違ないのですね?」


「はい。そのとおりですケイスさん」


 熱い視線が、ボクに向けられる。

 でもそれは、敵意ではない。


「あなたはそれでいいの、チサちゃん?」

 トシコさんが、チサちゃんに問いかけた。


 チサちゃんは、様子を見守っているようだ。

 答えが出せないのだろう。


「ゴメン、チサちゃん。こうしないと、ボクは前に進めない気がするんだ」




 ボクはずっと、みんなとの勝負を避けていた。

 できれば、仲良くしたいと。


 でも、それだけじゃダメな気がする。



 運転技術は、たしかに向上した。

 それでも、天使には遅れを取るかもと考えている。


 今のボクには、非情さが足りない。

 天使に敵わないとしたら、心の弱さだろう。


 手を取り合うだけじゃ、手に入らないものもあるんだ。



 このレースで、ボクはみんなにも勝つ!



「わたしは、ダイキを見守るだけ」

 チサちゃんが、ハンドルを握るボクの手を取った。

「勝とう、ダイキ!」


 その後は、お互い前しか見ない。 


「その意気だ、ダイキ」

「勝っても負けても、アタシたちは友達……いいえ、戦友よ。チサ!」


 ボクたちに、声援が送られる。


「手加減は、いたしません!」


 ネウロータくん、マミちゃん、セイさんが、同じタイミングで花火を放り投げた。


 三連続ねずみ花火に囲まれる。

 周囲は防音壁だ。避けられない!


「なんの!」

 回避できないなら、道を作ればいい。


 ボクはハンドルを思い切り横へ切って、防音壁を走った。


 ねずみ花火が、逆にみんなを襲う。


 だが、彼らだって遊びの天才だ。

 簡単に自爆するようなメンバーじゃない。

 巧みに花火をかわす。


 花火はすべて、後方にいるLO集合体めがけて爆裂した。


「にぎゃああああ!」

 LO集合体が、バラバラに分裂する。


「お見事だね、チサちゃん」


「みんな強い。だからこそ、負けられない!」

 チサちゃんの闘志も、みなぎっていた。


「それでこそ、アタシのライバルね!」

 同じ場所を通って、マミちゃんが追ってくる。


 ネウロータくんは、振り子のように防音壁を行ったり来たりして、遠心力を高めていた。


「そりゃああ!」

 グワンと音を鳴らし、ネウロータくんを載せたオープンカーがバウンドする。ハチシャクに体当りする気だ。


「そうはいくか!」

 ボクは防音壁のヘリに車輪を乗っけた。そのまま片輪走行する。


『片足じゃ、スピードは出せねえぜ!』

 ボクが全員からの攻撃をよけているスキに、ドレンが一気に追い上げを見せた。


「ダイキ、今!」


「落雷!」

 ボクは、「自分のハチシャク」の真後ろに、落雷を呼び寄せる。


 爆発力を利用して、超加速した。


『なんてやつだ!』


 セイさんに当たらないように、ドレンの後輪に体当たりをする。


 車体が横にズレて、セイさんが大きく減速してしまう。


 ミラーに写るセイさんの車体が、段々と小さくなっていった。


 他のメンバーも、まいたようである。


 仲間たちからリードを奪ったまま、二周目に突入した。


『ダイキ、ラスト一周。天使には余裕で追いつけるよ。でも、油断しないで』

 オンコから無線が入る。

『エィハスがおいしい唐揚げを作って待ってくれてるから』


「うん、ありがと。オンコ。エィハスにもお礼を言っておいてほしい」

 チサちゃんが、ワクワク顔になった。


『無理をしないでくださいね、ダイキ様。水の精霊が騒いでいます。嵐が来るのではないかと』

 心配そうな声で、オルガが告げる。


「わかったオルガ。警戒しておくよ。情報をありがとう」

『お気をつけて』


 通信を終えた。


「ダイキ、あれ!」


 すぐ目の前に、見覚えのある影が。


「速度を上げるよ、チサちゃん!」


 前方に、天使型LOたちの背中が見えてくる。


「ソー、後方に強い魔力の反応あり」

 ギターを抱えたまま、セーラさんが振り向く。


「おうおう、ダイキか! 一周半振りじゃけん! ここまで来おったか!」

 ソーも豪快に速度を上げた。


 引き離されないように、天使型LOと並走する。


「約束通り、決着をつけに来たよ!」


「おう。最後の勝負じゃけん!」


 ここからが正念場だ。


 わずかな雨粒が、フロントガラスに付いた。


 ボクたちの闘志に、冷や水を浴びせるように。

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