汚れた賢人《バーニング・ハート》
「姉さん、久しぶりだね」
ネウロータくんが、セイさんに話しかけた。
「ごぶさたしております、ネウロータ様」
しかし、セイさんはそっけなく答える。
セイさんは、ネウロータくんのお姉さんだ。
けれど、今は魔王とLOの関係である。親しく接することはできない。
「今日は、そういうのやめよ。セイさん。二人は姉と弟じゃないか」
一瞬、セイさんは戸惑った。けれど、ボクもチサちゃんも気にしない。
二人は、仲良くすればいいと思う。
ネウロータくんだって、主従関係を姉にまで求めるような非情さは持ち合わせていないだろうし。
「え、ええ。そうですね。一緒に走るのを楽しみにしていますよ、ネウロータ」
「姉さんには負けないからな!」
ようやく、二人は打ち解けあったようだ。
「あれ、ところで、ゼーゼマンは?」
ゼーゼマンの姿が、見当たらない。女好きだから、レースクイーンのお尻でも追いかけに行っちゃったのかな?
「あいつなら、あそこだよ?」
オンコが、実況席を指差した。
『おまっとさんでした、野郎ども! 元気してたか? オレサマ、汚れた賢人、バーニング・ハート様のご登場だ!』
ノリノリのアナウンスが流れ出す。
おなじみの実況者なのか、会場大盛りあがりだ。
「ゼーゼマンの声だ!」
身内が実況するのか。
『カリ・ダカの日程も本日最終日と来たもんだ! 今日の種目は、待ちに待ったレースだぜ! ワクワクしてんたんじゃねえのか? それはマシンも一緒だぜ。今日は浮世を忘れて、ぶっ飛ばそうぜ。野郎ども、用意はいいか⁉』
アロハシャツを着て丸いサングラスを掛けたゼーゼマンが、実況席で叫んでいた。
「ちょっと待って! この声、暗黒ラジオ体操の声と同じじゃない!」
え、あれを歌ってたの、ゼーゼマンだったの⁉
「間違いありません。多少ダメ絶対音感持ちの私がわかったのですから、パーフェクトなマミ様が間違えるはずがございません」
それはそれでどうなの、ケイスさん?
「ゼーゼマンは知る人ぞ知る、伝説の実況者だぞ。薬草学の他にも、色々と副業をしているんだ」
暗黒ラジオ体操の司会で、地方に呼ばれることも多いとか。
若い頃は、カリ・ダカ『二四時間耐久レース』の実況も、寝ないで担当したことがあるらしい。
意外だなぁ。
『まだまだレース前だからよぉ、今のうちにレースを彩るお嬢ちゃんたちを目に焼き付けてやんな!』
レースクイーンを見ろということだね。
「ホントにブレないなぁ、ゼーゼマンは」
ほらほら、身内のオンコにまで呆れられているぞ、ゼーゼマン。
「いつぞやはどうも、なの」
スターターは、ボクたちが知っている人物だった。
「キュラちゃん!」
チェッカーフラグを持っているのは、ロイリ・ス・ギルさんと、二層でボクたちと戦ったキュラちゃんだ。
「ロイリさんまで!」
二人共、タイトなミニスカート姿で会場を盛り上げている。背中がパックリと開いた、大胆なレースクイーン衣装だ。
キュラちゃんは今、チサちゃんの父である亜神【ラヴクラホテップ】のメイドを務めている。
そのためか、衣装もミニスカメイド服っぽくゴスロリだ。
靴も、ロイリさんがハイヒールなのに対して、キャラちゃんはローファーである。
「みなさん、ごきげんよう。大会の運営を代表して、このイベントにスタッフとして参加いたしますわ」
ロイリさんも、ボクたちに挨拶をしに来る。会場にいるダスカマダ王に手を振った。
ダスカマダ王が立ち上がって、頭を下げる。
ククちゃん、ヨアンさんがそれにならった。
「キュラちゃんも、スタッフなんですね?」
「レーサーとして出たかったみたいですが、相手がいませんので。けれど、楽しそうですよ」
ギャラリーがキュラちゃんを撮ろうと、バシャバシャとカメラのシャッターを下ろす。
満更でもない様子で、キュラちゃんも応対していた。
ある程度撮影が終わると、キュラちゃんは兄であるネウロータくんの元へ。
「お兄ちゃん、がんばるなの」
「おうキュラ。お前が応援してくれるなら、優勝はもらったぜ」
二人が引き裂かれなくて、本当によかった。
「お姉ちゃんも、がんばってほしいなの」
続いて、キュラちゃんはセイさんとも話す。
「ベストを尽くします。ありがとうキュラ」
家族と話せて、キュラちゃんは満足気に持ち場へ戻っていく。
「元気そうでなによりです。ありがとうございます、ロイリさん」
「お礼は、主人におっしゃって。今日は来ていないけど、みなさんを見守ってくれています」
「いないんですか?」
「はい。『亜神は二人もいらないから』って」
え、もうひとりの亜神って? 誰のことだろう?
「どういう、意味なんでしょう?」
ボクはロイリさんに、意味を尋ねようとした。
『では、野郎ども! レース開始のカウントを一緒に数えてくれい! 一〇!』
カウントダウンが始まってしまう。
車に乗り込まなきゃ。
「直にわかりますわ。では、お気をつけて」
ヒールをコツコツ言わせながら、ロイリさんは背を向け歩きはじめた。スタート地点に立ち、旗を振る用意をする。
ロイリさんの言葉の真相をつかめないまま、レースはスタートした。
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