パーティメンバーの支援

 レディーファーストで、チサちゃんを助手席へといざなう。その前にシートのチェックだ。


「シートはホコリにまみれていない。キレイだね」

「内装は、魔法でコーティングしていたから」


 オンコの言葉に安心したボクは、チサちゃんにシートへ乗ってもらう。


「ありがと」

「ボクも乗るね」


 運転席へ腰掛ける。まるで新車に乗るような緊張感だ。


「よかった。オートマだ」


 ギアを確認して、安堵する。トラックに乗るつもりはなかったから、オートマ限定免許なんだよね。


 見た感じ、計器類や各種パーツは、普通の車両と変わらない。これなら迷わず運転できるだろう。


「キーを差し込むよ」

「どうぞ」


 ボクはキーをハンドルに差し込んで、回す。


 程よい脱力感が、ボクにのしかかった。ボクの魔力を吸ったのだろう。


 チサちゃんも、軽くピクッとなった。身体をモジモジさせている。


「魔力が抜けていくのを感じた?」

「うん。でも大したことない。平気」


 本当に大丈夫そうだけど、危なくはないのかな。


「走ってみる?」

「うん」


 オンコが、ガレージを手で開けてくれた。


 薄暗い倉庫に、光が差し込む。


 ボクは恐る恐る、アクセルを踏んだ。


 ブウンと唸り、廃車が息を吹き返す。


「おお、動くぞ。チサちゃん、このマシン、ちゃんと動く」

「よかった。早く走ろう」


 チサちゃんも、興奮気味にボクを急かした。


「進んでごらん」

 オンコが倉庫の脇に移動し、道を開ける。


 徐行で、前へ進んだ。広い道に出る。


「もっと、速度を上げていいよ」


 アクセルをより深く踏み込んで、加速した。蛇行して、ハンドルの強さやタイヤの具合を試す。


「面白い面白い」

 だが、チサちゃんの興味はパワーウインドウのようだ。


「すごい。これが今まで廃車だったなんて」


 車を止めて、オンコに乗り心地を話した。


「誰も乗りこなせなかった、って言えばいいかな?」


 オンコによると、このレベルの車はもう前時代的で、バージョンアップもしなかったらしい。もう一台の車両として、完成している。速度を上げるなら、フルモデルチェンジしたほうが早いのだとか。


「スピードを上げると、疲労度もアップするから気をつけて」

「どうなるんだろう?」

「チサっちのことだから、お腹が空きまくる」


 隣を見ると、チサちゃんがお腹をさすっている。

 

 ボクもお腹が空いてきたような。


 やはり、それなりにリスクはあるようだ。


「ご飯食べていきなよ。用意させたから」

「そうさせてもらえるかな?」


 ゴマトマ城に戻って、食事の間へ。


「みんな、来ていたんだね」


 そこには、ボクたちのパーティメンバーが勢揃いしていた。

 女剣士エィハス、エルフの魔道士ゼーゼマンだ。


「ゴマトマは車両の提供など、キミらチームのスポンサーなんだ」


「我が故郷、水上要塞ビントバーもなんです」

 そう話すのは、人魚のベルガである。彼女も、パーティの一人だ。 


「ところでさ、みんなその格好はどうしたの?」


 服装が、いつもと違う。


「私は、レースクイーンをやることになった」

 ピッチリしたミニスカート姿のエィハスが、身をよじる。


「少し派手すぎではないだろうか?」

「とっても似合ってるよ、エィハス」


 ボクに続き、チサちゃんも「美人」と、エィハスを褒めた。


「ワタシもなんですよ!」

 同じく、ベルガも椅子から立ち上がった。ヒラヒラスカートのビキニに身を包んでいる。手には黄色いポンポンが。

 

 チアリーディングだろうか。

 でも、あのポンポン、イソギンチャクだよね?


「ダイキ様、当日は全力で応援致します!」

「頼りにしているよ、ベルガ」


「はい!」

 ポンポンを持った手を胸の前で組み、ベルガが飛び跳ねた。


「吾輩は、実況をせよとのことである。年寄りには酷なのである」

 その割に、ゼーゼマンはアロハに着替えていたりとノリノリだが。


「じゃあ、お昼いただこうかな」

「いただきます」


 よほどお腹が空いていたのだろう。

 チサちゃんはボクたちの会話に入ろうとせず、一心不乱におにぎりを食べ始めた。


「相変わらず、気持ちいい食べっぷりだね」

 オンコはうれしそうに言う。


 お米は、この土地の名産だもんね。


「みんなは、同行はしないんだね」


 つまり、ボクたちパーティメンバーは、一緒に行動することはない。


「お二人さんのデートを邪魔なんて、できっこないよ。楽しんでほしいからね」

 軽く、オンコがボクの肩を叩く。


「吾輩が使い魔を呼ぶのである。それで常時見ておくから、気にせぬよう」


 ゼーゼマンは、車両にナビ用のドライブレコーダーもつけてくれるそうだ。


「いざとなったら駆けつけるから、安心してくれ」

「医療面の支援は、おまかせくださいませ!」


 エィハスに続き、ベルガも支援を約束してくれる。


「でもいいの? こんな量産の車で優勝できたのは、たった一人しかいないよ」

「誰なの?」



「黒龍ルチャ」



 その名を聞いて、ボクは電流が走った。


 ボクのスキル【黒龍拳】は、黒龍ルチャから託された技である。ボクはどうやら、ルチャの血縁関係にあるらしい。ボク自身はただの人間らしいけど。


 ボクの尋常じゃない魔力貯蔵量は、黒龍ルチャの血を引いているからでは、とのこと。


 以前、黒龍拳をフルパワーで発揮したことがある。

 人の型をした災害【勇者】を、撃退したとき。

 二層で大暴れしていた勇者と、ボクは戦ったのだ。


「これは、運命だよ。ボクとルチャは、ちゃんと繋がっているんだ」

 おにぎりを頬張りながら、ボクは決意を固める。


 ボクは、何度もルチャに助けてもらった。

 今度は、ボクがルチャをゴールに導く。


「最終的な整備・調節は、こっちでやっておくよ」

「お願いします。チサちゃんも、これでいい?」

「ダイキのスキな車が見つかってよかった」


 こうして、ボクの乗る車は決定した。


 ボクは、このハチシャクと風になる。

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