最強の車、ハチシャクとの出会い
ものは試しだ。ゴマトマへ。
「よく来たね。準備は整っているよ。どうぞ」
ボクたちは、ゴマトマ城の脇を通って、広い道に出た。平坦な道が、どこまでも続いている。まるで、車が旋回できそうなくらいに。
「あれは?」
広場にポツンと、一軒家が建っている。
「ウチの車両工場だよ。入って」
壁の脇にあるドアから、中を見せてもらった。
「こ、これは!」
大小様々な車が、コレクションのように並ぶ。どれも、地上で見る車に近い。ただ、やや時代がかっているような。いわゆるクラシックカーばかりだ。
「全部、ウチでつくった車両だよ。カリダカが開催されるときだけ、彼らは命を持つんだよ」
ゴマトマが車両を開発しているって話は、本当だったんだ。
「でも、どうして実用化していないの?」
「燃料の問題でね」
これだけ複雑な構造だと、魔王の魔力なしでは動かないという。ゴマトマで作っている車も、例外ではないそうだ。
そっか。この世界には、化石燃料はないもんね。どこを見ても、そんな素材は見たことがなかった。
「じゃあ、故障したら大変だよね……」
「心配ないよ。当日は、オイラもメカニックとしてサポートするからね」
話はゴマトマにも知れ渡っていたらしい。ボクたちの仲間であるオンコ姫は、すぐに車両を見繕ってくれていた。
「ありがとう。期待しているよ、オンコ」
「でね、オイラ並みに考えてみたのさ。ダイキが乗るにふさわしい車ってのをさ」
案内してもらったスペースには、数台のバイクが。
「これなんてどう? スーパー・サブっていうんだけど」
サイドカーのついたバイクである。販売総数一億台を突破し、歴代の優勝者を乗せてきた実績を誇るとか。
「このサイドカーが売りでね。狭いけど、計器類が運転席と連動していて、サポートマシンとしても有能なんだ」
サイドカーの機能こそが、「スーパーサブ」と呼ばれている由来なんだとか。
「いい感じ。ダイキ、これがいい」
へルメットを被ったチサちゃんが、サイドカーに乗ってハシャぐ。
確かに、チサちゃんの反応は抜群だ。チサちゃんを横に乗せるから、会話できるのがいいと思える。けど……。
「バイクはちょっと。免許持ってない」
原付免許があるから、乗れなくもない。とはいえ、チサちゃんの負担が大きすぎる。
「狭いし、密着できないよ。乗り心地は最初こそいいけど」
「確かに。ダイキの側にいられないのは痛い」
チサちゃんも納得したようだ。
「じゃあ、スーパー・サブは別の魔王さまに払い下げておくねー」
どうも、このバイクを欲しがった魔王がいるらしい。
買い手がつかなかった時は買い取るという。
誰が買おうとしているか、だいたい予想がついてしまうけど。
「じゃあ、これは?」
言ってオンコが用意したのは、装甲車だ。外装内装ともにギンギラギンである。
「落石があるような所でも平然と走れるよ」
「ペチャンコになっちゃうよ……」
どうにも、お目当ての車が見つからない。
「他の人って、車を使うんだよね?」
「そうとも限らないよ。手押し車もいれば、ドラゴンで移動するヤツもいるよ」
形式は、様々なんだなぁ。
「でも、ドレンに乗るのは、やめときなよ。いくら友達っつっても、セイの魔力しか波長が合わないらしいから」
セイさんが、車は自分で用意しろ、と言ったくらいだ。ドレンを貸すと言わなかったのは、それが理由なんだろう。
なにもドレンは、チサちゃんが嫌、ってわけじゃない。
セイさん以外を乗せる気がないのだ。
「速さもいらないんだよね。スーパーサブでも走破できるくらいだから」
あとは、乗り心地くらいか。運転技術が特に必要なくて、長時間の移動も耐えられるような。
「あれ?」
倉庫の隅で眠っている一台の車が。
「ああ、あれを忘れていたね」
お豆腐のように白い車が、目に飛び込んできた。
随分と、ホコリを被っている。
「ハチシャクかー。お目が高いね」
ハッチバック車のホコリを、オンコがフッと吹き飛ばす。
白かったのは、ホコリのせいだった。正しくは、白黒の三ドアハッチバックである。
全体的に円形のシルエットで、ヘッドライトとウインカーは、共に丸い。
真っ白のボディが、ボクに「乗れ」と告げてくる。
「変にピーキーでもなくて、クセもない。安定した走りを見せてくれるよ。でも、戦力としてパッとしないから、相手にされなくなったんだよね」
ボクは手で、車両を撫でた。まるで脈打っているかのように、熱が伝わってくる。
「乗っていいかな?」
「はいな」
そばにあるメタルラックから、オンコがキーを取った。ボクに向かって、放り投げる。
キーを受け取った。魔法の装飾が施されていて、このキーを伝って魔力を流し込むんだろう。このキーは、いわゆる「杖」だ。直感で、ボクは理解した。
「握りにあるボタンを押してみて。ドアが開くから」
この辺り、市販の車と遜色ない。
慣れた手付きでキーのボタンを押すと、ロックが解除された。
「あ、そうだ!」
気になって、運転席を確認する。
よかった。日本車と同じ右ハンドルだ。
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