第三部 今度は、スタンプラリーだ! ワケあり悪役令嬢とのデットヒート!

3-1 次なるライバルは、悪役令嬢!

三層の競技形式 決定!

「ダイキ、相変わらず運転がうまくならない」


 ボクの足の間に座って、チサ・ス・ギルちゃんがため息をつく。




 チサちゃんはボクが仕える魔王で、ボクは彼女の【玉座】である。地球でリストラされたボクは、彼女の玉座となって、まったりしたり冒険をしたりするのだ。たまに、こうやってゲームをすることもあるけど。




 この日も、ボクたちは「魔リカー」というレースゲームで遊んでいた。現時点で、ボクが最下位を独走している。




「遠慮しないでいい、ダイキ」


 チサちゃんが、ボクを気遣ってくれた。




「いや、道を譲ってるわけじゃないんだよね」


 本気で戦っているつもりなんだけどなぁ。




「免許持ってるのよね、ダイキ?」




 ボクの隣りにいるのは、別の世界を統べる魔王マミ・ニムちゃんである。チサちゃんの親友だ。最近になって、本名を【マミー・ニフェルラトゥム】ということを、ボクは知った。




マミちゃんの玉座であるケイスさんも【セイケリッド・スフィンクス】という真名を持っている。しかし、ボクにとっては二人はマミちゃんとケイスさんだ。




「持ってるよ。でも、ゲームと実物では、勝手が違うから」




 普通、車はコントローラーでは動かない。




 まして、ボクは安全運転を心情としている。


 レース感覚で車を動かすなんて危険な行いは、ずっと避けていた。




「車が悪いってわけでもないわ。あたしたちがハンデをあげているのに、勝てないなんて!」




 マミちゃんから、強い車を選ばせてもらっているのに、ボクはまったく活かしきれていない。




「お言葉ですがマミ様、人には得手不得手がございます。元々レースが苦手という性格ならば、無理に遊ばなくとも」


「あなたは口を挟まないでケイス! どうして接待プレイができないのよ!」


「んほぉ!」




 マミちゃんが、ケイスさんの腹を足の甲で蹴る。


 ケイスさんが悶絶しながらも、うっとりした顔になった。


 この二人は、この感覚が病みつきになっているらしい。




「それにしても、遅いわね! 運営は遊んでいるのかしら?」




 三層に行く権利は得たものの、運営のアナウンス待ちという状態が続く。




「よーし、もうひと勝負よ、ダイキ!」




 マミちゃんが再びコントローラーを握った瞬間だった。




 テレビの画面が、切り替わる。




『魔王の皆様、お待たせいたしました。これより、三層の説明を行いたいと思います』




 現れたのは、二層で対戦した羊の魔王ちゃんだった。たしか、ケモちゃんだったっけ? 




「ダイキ、ついに来た」




「うん。三層って、どんなところなんだろう?」




 ケモちゃんが、その場をどく。ホワイトボードが迫ってきて、ケモちゃんは端っこまで移動した。


『今回の種目は、カリダカ・ラリーですっ!』




 カリダカ? パリダカじゃなくて?




「まあ、カリダカ! 憧れだったのよ!」


「よかった、カリダカ楽しみ」




 マミちゃんが歓喜し、チサちゃんも賛同する。




「そんなに面白い競技なの?」




「魔大陸横断スタンプラリー。魔王選抜競技の中でも、人気種目」


 興奮気味に、チサちゃんが説明した。




「大陸を横断しながら、各チェックポイントにあるおいしいごはんが食べられる」


 そっちが目当てか。




『魔大陸を、最西端【カオスロリト】からスターチして、ゴールの【ダスカマダ】まで来るまで移動する、レクリエーション種目でーす』




 娯楽目的なのか。たしかに楽しそうだ。




「レースじゃないの?」


「一応レース形式ではあるの! だけど、他にも条件があるわ!」




『競技方法について、ご説明します』と、ケモちゃんが画面を通して説明を始めた。




『皆さんには、第一チェックポイントにて、白紙のカードをお渡しします。各チェックポイントを回って、何らかの条件を満たせば、運営委員会からスタンプを押してもらえます。そのスタンプを全部集めた方たちが、次の階層へ行けまーす』




 なるほど、ラリーと言ってもスタンプラリーなのか。




「早いもの勝ちなのかな?」


「乗り物が早ければいい、ってものでもないわ! 現地のグルメを食レポとかがあるから、簡単には進めないわよ!」




 レクリエーション目的といえど、一筋縄では行かなそうだ。




「中には【LOを倒す】ことが目的のエリアもあるとか」




 権利を剥奪された者たちLost Ownershipもいるのか。




「戦わないといけないんですね」


「いいえ。早食いや尻相撲など、戦闘形式はマイルドになっています」




 そうかー。よかったぁ。




「ただし、レースで決着という形式の敵もいますので、お気をつけて」




 気を引き締めるべく、ボクはツバを飲み込んだ。




『なお、車は自由に選んでくださって結構です。走りやすい車を選択ください』




 売り物をゲットするもよし、自分でイチから作ってもOKらしい。




『ただし、動力源は【魔王の魔力】です』




 魔力が車のガソリンだとしたら、食べ物の摂取が重要になってくる。


 だからサービスエリアを回る必要があるのか。


 給油スポットじゃなくて、給水エリアなんだね。




『細かいご説明は、大会当日にいたしまーす。ラリー内容の解説も反復しますよー。では、当面は車選びの方でがんばってくださいねー』




「でもダイキ、大丈夫?」


「そうだね」




 この三層は、乗り物が必須なのだ。




 ボクに、乗りこなせるだろうか。



「カリダカ用の車ですか」

 車両についてどうすべきか、執事のセイさんと相談する。

 セイさんは、夕飯の下ごしらえをしていた。今日はエビフライである。


「では、ゴマトマへお向かいくださいませ」

「え、ゴマトマ鉱山って?」


 ゴマトマ王国が、装備類を作っていることは知っていた。けど、車も作れるの?


「カリダカではちょっとした有名人なのです。ゴマトマ産の車両は、カリダカでは有名なんですよ」


『オレ様も、ゴマトマ出身のマジックモンスターだからよ』

 セイさんの側に従うのは、レッドドラゴンのドレンだ。庭を掃除してくれている。


「でも、車だよ?」


 回転寿司屋さんのはレーンを作れるくらいだから、車も作れるだろうけど。


「車両と言っても、現代日本の技術を使用しているわけではありません。第一、チサ様の魔力で動く、と解説者様はおっしゃったではないですか」


 言われてみれば。


「外見こそ、車両に近いです。けれど、中身は日本で走る車とは別物だとお考えください」


 ボクの考えていることに対して、セイさんが的確に指摘してくれる。


『お前ならやれるさ、ダイキ。勇者をぶっ倒したお前ならな』


「ありがとう、ドレン。なんだかやる気が出てきたよ」


 明日、ゴマトマに行ってみよう。

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