第二部 完 謎の影
チサとダイキが恋人たちの岬で話し合っているのを、眺めている怪しい影が。
「はあー。尊いのです。麗しいのです。初々しいのです」
『せやなー』
見ている影は、羊の魔王「ケモ」と、クモの玉座「クネ」であった。
「魔王ロイリ様のご指示で、勇者探索をしていますが、失敗しました。まさか、もうチサちゃんの世界に入っていたなんて」
『仕方ないやんけ。昔の勇者を幻影化して復活させるなんて、誰も思いつかんて』
「でもでも、わたしたちがガンバっていたら防げたのでは?」
『あかんて。そないなったらワシらがお陀仏やった』
ネガティブ思考のケモは、いつもクネにフォローをしてもらう。いつものことだ。
「クネの言うとおりですよー、ケモ」
「あ、ロイリ様だ」
ケモとクネの脳内に、電波が発信される。
上官のロイリ・ス・ギルからだ。
「あなたは過去を後悔しすぎです。それより前を向きましょ。で、指令ですが」
「はーい」
「三層は、遠慮しなくていいですよー」
「え、いいので?」
サテュロスの化身であるケモは、魔王候補の中でも相当の実力者だ。
しかし、ロイリからの指示は、
「他の魔王候補とのバランスを整えつつ、二人の動向を探れ」
である。
他の魔王にも加減せざるを得ず、少々物足りなさも感じていた。
「一層だと手加減したでしょ、あんたたち」
「はい。お手並み拝見と言うことで」
ある程度までは本気だったが、勝てないと見切りを付けて、早々と降りたのである。被害は最小限の方がいい。
「二層だと、ごはん食べてただけですよね?」
図星をつかれ、ケモは息を呑む。
やはり、ロイリはなんでもお見通しだ。
こちらにやる気がないのを、知っている。
「でも、課題はクリアしました。ギリギリでしたが」
三層行きのイス、最後の一つを手に入れたのは、ケモである。
「あなたが手を抜いていることくらい、こちらは把握しています。もう少し、真面目になさい」
「はぁい」と言いつつ、心の中ではロイリに舌を出していた。
もう使いっ走りはしなくていいようなので、今後は張り切っていこうと思う。適度に。
「……とか思ってません?」
心の中を全て見透かされた上に、目の前にまで。
「ヒイ!」
カワイイ外見に見合わず、ケモは変顔で悲鳴を上げる。
突然のことだったので、余裕をなくしたのだ。
「心配しなくても、あなたでも割と気に入る種目だと思います」
『種目』?
「あの、ロイリ様、三層で行う『種目』とは?」
「実はさっき、結構面白い種目を思いつきまして」
彼女の手には、とあるゲームソフトが握られていた。
(第二部 完)
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