恋人たちの岬にて
約束通り、ボクたちは【恋人たちの岬】に座る。
夕焼けが眩しい。
「ここかな?」
ボクたちは、白いベンチに腰掛ける。
「風が気持ちいいね」
涼しい風を感じながら、ボクはチサちゃんの言葉を待つ。
サンセットが見える。
それでも、チサちゃんからは語りかけない。
「チサちゃん、あのね」
「ダイキ、ごめんなさい」
ベンチに座るなり、チサちゃんがボクに詫びた。
なぜだろう。
「今回の魔王選抜、わたしは最後まで、あなたを戦わせるつもりはなかった」
クエストメインにしたのも、ボクを戦わせないためだったそうだ。
結果的に、ボクが戦うことになったけど。
「簡単なクエストをこなして、なるべく魔王同士で戦わない方向でいくつもりだった。でも、それでさえ勇者が現れた」
なにか、ろくでもないことが起きている気配がする。
「人に危害を加えなかったら、勇者は現れないんだよね?」
「そのはずだった。魔王だって、別に他の魔王をいじめたいから王同士でいがみ合ってるんじゃない。人に危害を加えない最小限の方法が、王同士のケンカ」
ボクはハッとなった。
そういう考えもあるのか。
クエスト中心だと、LOのような強いモンスターがダンジョンに現れて、街に被害が及ぶもんね。
「それでも、そっちの方が安全。確かに、王同士で戦えば開発の効率はいい。けど、住民と交流しないから街での王の印象が悪くなる」
街に干渉しないから、発展もしない。それゆえ、魔王と街との連帯感も生まれない。
チサちゃんは、町の人とも仲良くなりたいと考えているのだ。
事実、二層のヌシ様とも仲良くなれたモノね。
「なのに、勇者は現れたんだよね。どういうことだろう?」
「おそらく、ダイキには関係のない所で、わたしたちはマークされた」
「チサちゃんは、心当たりがある?」
首を横に振り、チサちゃんは考え込む。
「ママですら、分からないと言っていた。もう両親の制御下を外れている。もはや、誰を襲ってもおかしくない。三層にも平然と現れるかも」
膝の上で、チサちゃんは拳を握る。
「もし、怖かったら帰っても……」
「そこまで」
ボクは、チサちゃんを抱きしめた。
「……ダイキ?」
「ボクはね、チサちゃん。キミや誰かに言われたから戦ってるんじゃない。チサちゃんのことが大切だから、側にいるんだ」
確かに、ボクは何もかもを、チサちゃんの言葉に一任している。
それはチサちゃんの意見を、尊重したいからであって。
もし、チサちゃんがどうしようもない子だったら、ボクだって厳しく意見しただろう。
でも、チサちゃんが間違ったことは一度もない。
「キミを助けたい。これからもずっと」
「ありがとう、ダイキ」
チサちゃんの声が、艶っぽい。
ちょっと、雰囲気がかなり色っぽくなってきたぞ。
大丈夫なのか。
なんかチサちゃん、目をつむってしまっているし。
まだ、寝る時間じゃないよね。ということは……。
ボクが冷や汗をかいていると、「ポーン」という間の抜けた音が。
『一九時を迎えました。ただいまをもちまして、三層通過者の募集を締め切りました。合格者の皆様、いよいよ明日、第三層の扉が開きます。ご準備の程、よろしくお願い致します』
アナウンスの声で、ボクは我に返る。
「じゃあ、帰ろうかチサちゃん。明日は早く起きなくちゃ」
「帰る」
素っ気ない返答が。せっかくのムードを台無しにされたもんね。
チサちゃんを抱えて、ボクは着ぐるみの玉座に座らせようとした。
「ちょっと、チサちゃん?」
突然、チサちゃんが体勢を変える。
ボクとは、向かい合う形に。
「どうしたの? くすぐったかった?」
ボクが聞いた瞬間、チサちゃんの唇がボクの頬に触れた。
「んっ」
チサちゃんがボクの首にしがみつく。結構な時間、ボクに抱きついていたと思う。
「チサ、ちゃん?」
永遠とも思える時間が過ぎて、サンセットを迎えた。
ボクの身体から、チサちゃんは離れる。
「今は、ここまで」
潤んだ瞳で、チサちゃんはボクに微笑みかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます