ダイキ、最終形態

「衣装まで変わってるぞ!」



 服装が、今まで着ていた着ぐるみじゃなくて、上半身は裸になっていた。下は、プロレスのロングタイツになっている。白地に黒いウロコがせり上がるような形だ。顔全体も、マスクで覆われている。これじゃ、まるでホンモノのルチャ系レスラーじゃないか。


 でも、スゴイパワーだ。水の中にいるのに、ちっとも呼吸が乱れていない。


「ヨロイがなくても、息ができるよ?」

『その姿に、全てのヨロイの特性が詰まっている。つまり、二つのヨロイを身にまとっている状態』

「これが、ボクなのか?」


 すっかり変わってしまって、ボクは困惑した。


「落ち着いて、ダイキ! これが、【玉座】の本当の意味よ!」


 マミちゃんが、心配ないと言ってくれる。でも、玉座の本当の意味だって?


「魔王を取り込んで本来の力を発揮する、これこそ魔王の玉座なのです!」

 気絶から立ち直ったセイさんが、補足説明してくれた。


「そういえば、セイさんも」

「はい。あなたと戦ったとき、ワタシはドレンと融合したでございましょう? それが本来の姿なのです」


 ボクは、セイさんとドレンが合体した、『ハイパードレン』形態を思い出す。


 セイさんの元玉座であるドレンが、まるでロボットアニメのような姿になって、コックピットにセイさんが乗り込むのだ。


 あの形態は、確かに強かったのを記憶している。


 ドレンとセイさんが放った全力のエネルギー砲を、ボクはスキルポイントを黒龍拳に前振りして凌いだっけ。



「恐れず戦闘をしてください!」


「はい!」

 ボクは、大地を蹴って勇者に突進した。


「え?」



 信じられない早さだ。なのに、相手の動きがやけに遅く感じる。




 意図せず放った跳び蹴りが、勇者の頬にクリーンヒットした。正確には、地面を踏みしめようとした足がそのまま勇者にめり込んだんだけど。


 地面に転がった勇者が、首をかしげながらも立ち上がる。何事もなかったかのように、再び斬りかかってきた。


「どれだけタフなんだ?」

 両手を上下に広げて、迎え撃つ。



『ダイキ、両腕に【黒龍鱗】発動』


「よし。黒龍鱗!」


 ボクは両手に黒龍ルチャのウロコを展開した。


 まともにガードすれば、たやすく防御を突破される気がする。

「だったら」

 受け止めるというより、受け流す。


 信じられない。

 あれだけ怖かった勇者の攻撃が、止まって見える。


 

『ダイキ、パンチ』


 脳内で、チサちゃんが語りかけてきた。姿は見えないけど、チサちゃんの魔力を体内で感じ取る。まるで、チサちゃんの言葉が血となって、ボクの身体を流れているみたいだ。

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