ダイキ、最大パワー

 今までボクは、敵を侮っていた。所詮は小さい子どもだと。

 でも、違うんだ。こういう強い相手もいる。



 勇者は、容赦して勝てる相手じゃない。油断してはいけない、危険な相手なんだ。少しでも気を抜いたら、魔王が束になっても全滅してしまうほどに。


 ハンパな気持ちじゃ、誰も守れないんだ、と。


「勇者に乱入される筋合いなんてない! 部外者の制裁を許すなんて、ボクは納得できない!」


「本当は、ダイキには戦って欲しくない。危ない目には遭って欲しくなかった」


「ありがとう、チサちゃん。でも、そうは言っていられないんだ。ボクだけ平和にぬくもってる訳にはいかないよ」


 ボクが決意を表明すると、チサちゃんがうなずいた。また、ボクに座る。


「分かった、ダイキ、リミッターを解除する」

「え、そんなのあったの?」


 ボクって、パワーをセーブされていたんだね。



「マミのケイスも、トシコも全力。でもダイキは、わたしがリミットを設けていた」


 たしかに、レベルMAXにしては弱いなと、自分でも思っていた。


 臆病なボクのせいだと思っていたけど。


「お願いダイキ、みんなを助けて。勇者を倒せるのは、ダイキだけ」


 真剣な眼差しを、チサちゃんがボクに向けてくる。


「うん。ボクの全力を見て」


 必ず、勇者を倒してみせるよ。



「ダイキ、フルパワーッ!」


 チサちゃんが両手を広げると、ボクの身体が光に包まれた。

 光の中で、ボクは一人立ち尽くす。



 ここは、どこなんだろう。


 視線の向こうに、両手を広げてボクの方へ向かってくる少女の姿が。


「あれ、チサちゃん?」



 一糸まとわぬ姿で、チサちゃんがボクに飛び込んできた。全身が光に包まれているので、身体の輪郭しか分からない。

 ボクも同様の姿である。


「ここは?」

「ダイキの心の中。わたしたちは、ひとつになる」

「ひとつに」


 どういうことだろうと思っていると、なんとチサちゃんが僕の胸に溶け込んだ。


「え、チサちゃん? 大丈夫なの、これ?」

「心配いらない。すべてわたしに任せて」


 そこで、ボクの意識は途切れた。




 光が収まると、なぜかチサちゃんがいなくなっている。けれど、どこよりも近くチサちゃんを感じられた。


「えっ、チサちゃん!?」


 あろうことか、チサちゃんがボクの身体に取り込まれている。ボクは、チサちゃんと一体化してしまったというのか?



「大丈夫、チサちゃん?」


『心配ない』


 頭の中に、チサちゃんの声がした。


 チサちゃんに見守られているというより、何もかも一体化した気分である。ボクとチサちゃんが溶け合って、一人の存在になったような。

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