勇者、襲来!

「ぼくは、一緒に歩いてくれる人が欲しい」



 拒絶の言葉ととらえたのか、キュラちゃんが寂しそうな顔をする。



「トシコと出会って、ぼくは前に進めた。後ろだけ心配する関係ではない、新しい出会いに刺激を受けた」



「もういらないのかもん?」

 自分が捨てられたと、キャラちゃんは思い込んでいるようだ。



「いらないなんて。ぼくは、キュラにも同じ出会いを体験してもらいたかったんだ。ぼくの背中だけ見ていたら、きっと視界が狭まって、いずれは何も見えなくなる」


「ワタシは、お兄ちゃんの背中だけ見ていたいもん」

「ぼくと同じ景色を、見ていないだろ」


 キュラちゃんがハッとなった。


「お前は、ぼくというフィルター越しにしか世界を見ていない。でも、トシコさんは一緒に並んで同じ景色を見てくれている。だから、ぼくはトシコさんを選んだ」


 ネウロータくんの説得を、キュラちゃんは黙って聞く。


「お前がキライになったんじゃない。トシコさんが好きなんだ。キュラにも、いい人が見つかって欲しい」



「キュラは、足かせなのかもん?」


「邪魔なもんか。キュラはぼくの大切な妹だ。だからこそ、一人前になって欲しい。素敵な人に出会ってもらいたいんだ」


 愛が強い故に、突き放そうとした兄と、依存してしまった妹、か。難しいね。


「お前をひとりぼっちにしたのか、ぼくのせいだ。お前を独占することで、お前の人生を台無しにしたくない」


 お兄さんの声が届いたのか、キュラちゃんが武装解除を始めた。

 彼女を覆っていた巨大イソギンチャクが、ドロドロに溶け出す。


「離れていても、お兄ちゃんを好きでいていい?」

「当たり前だ。キュラ……ぼくも、キュラが大好きなんだ」



 ネウロータくんが、キュラちゃんを抱きしめようとした……そのとき!




「危ない!」




 

 急にチサちゃんが飛び出し、二人の間に入る。



 瞬間、巨大な刃がネウロータくん兄妹の間に。



 二人を引き剥がしたチサちゃんを、光る刃は貫こうとした。



「チサちゃん!」

 すかさず、ボクは黒龍鱗を最大出力で展開する。



 攻撃は、どうにかそらした。


「うそぉ!」


 黒龍鱗が、ボロボロに欠けている。光の剣によって、黒龍鱗はあっさりと破られてしまった。


「ダイキ、下がって!」 

 チサちゃんが人間大の火球を放ち、ボクごと後ろに飛び退く。



 光の戦士も、後ろへと飛んだ。

 しかし、火球をまともに浴びて、壁に激突した。


「やっつけた?」

「まだ。あいつは、強い」



 不気味に笑いながら、戦士がムクリと起き上がる。



「誰?」


「これは……勇者!」

 まったく余裕のない声で、チサちゃんが叫ぶ。



 黄色い光に包まれた戦士である。

 背丈はチサちゃんたちと同じくらいだ。


 光が人間を形作っているといえるだろう。衣装などは光っていて、正確な造形は確認できない。身体つきは小さいが、気配は歴戦の闘士を思わせる。


 何より、目も鼻もない。口だけが、不気味に嗤っていた。口角が上がったままで固定されている。 




「あれこそ、伝説の勇者、【エレクチオン】ですわ!」

 ベルガの声色が本気だ。

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