キュラちゃんの野望

 ようやく、ネウロータくんが意識を取り戻す。


 トシコさんから、詳しい事情を聞いた。

「キュラちゃんの玉座になりたいモンスターはたくさんいたわ。でも、お兄ちゃんがいいって。自分がお兄ちゃんの玉座になるんだって」


 しかし、ネウロータくんはトシコさんを選んだ。


「嫌っているわけじゃないんだ。キュラとぼくは、実の兄妹だから。結婚できないからな」


 玉座はゆくゆく、魔王の配偶者になる。

 しかし、血が繋がっている者同士で婚姻はできない。


「結局、キュラちゃんは誰も玉座に選ばなかったわ」


 そのため、キュラちゃんのLO墜ちが確定したという。


 誰とも組めなかったチサちゃんとは逆だ。


 自分からパートナーを拒んでいた。


「だったら世界の方を変えるもん! お兄ちゃんとわたしの二人だけが幸せになれる世界を作ればいいだけだもん! わたしは、お兄ちゃんとの子どもを産むもん!」 

 キュラちゃんが、再び動き出す。


「やめろ!」


 ネウロータくんの下半身が、縄のように伸びた。

 太い蛇の胴体が、キュラちゃんの巨体に巻き付く。

 こんな特技があったんだね。


「これ以上暴れるな! 人間に危害を加えていると、勇者が来るぞ!」


 キュラちゃんの全身を締め付けながら、なんとかネウロータくんが説得する。


「勇者?」


「街を荒らしたり、よその世界にちょっかいをかけ過ぎると、勇者がやってくるんだ。キュラはもうリーチが掛かっているところだ」


「そんなに猶予がないの?」


「誰も三層へ行けないって話はしたよな? こいつのせいなんだ」


 ネウロータくんの妹であるキュラちゃんが、海を渡って三層へ行こうとする魔王たちを襲っているらしい。


 ネウロータくんの調査で、判明したのだ。


「そんなことをしたら、取り返しが付かないよ! やめてくれキュラちゃん。キミは悪い子じゃないよ!」


「うるさいもんオッサン! ワタシにかまわないでほしいもん!」


 緊急事態でありながら、ボクに懐かなかった子って久々だな、と思ってしまう。


「ダメ。あのコはネウロータ以外の声は耳に入らない。全部雑音。彼女にとって、ネウロータこそすべて」


 全部は、ネウロータくん次第ってコトか。

 負担が大きい。




 ボクたちは、何もできないのか?




「いい加減にしてほしいもん! お兄ちゃんはワタシに意地悪しないもん! ワタシを苦しめるコトなんて、絶対にしないもん!」


 とうとう、キュラちゃんはネウロータくんの拘束を解いてしまった。


「えええい!」


 身体に突き刺さっていたトシコさんの矢も、キュラちゃんは全て弾く。

 海底神殿すら壊す勢いで、イソギンチャク部分が膨れあがった。

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