緊急事態

『ミッション・コンプリート! 街の発展を妨害するLOを倒しました。これで三層への到達条件を一つクリアしました。残るは、海底神殿攻略のみとなります』


 頭の中に、アナウンスが流れた。

 


「ダイキ、行こう。この二層は、何かおかしい」


「そうだね。様子が変だよ。ここまで立て続けにトラブルが起きるなんて」


「普通、ひとつの階層にLOが二体以上存在すること自体、ありえない。この二層には、何かある」


 なにが妙なのかって、亜神が絡んでいる気配がないコトなんだ。亜神の妨害なら、もっとわかりやすい。


「一層の展開は、亜神が絡んでいたんだよね?」

「わたしたちの関係を怪しんだパパが暴走した。でも、今回は違う。もっと別の感情が蠢いているのが分かった」


 チサちゃんのセンサーに、ビビッと来るモノがあったみたい。


『ダイキ・オサナイ! ちょっといいか?』

 ウワサをすれば、だ。遥か空の彼方から、声がする。


 突然、空が裂けた。宇宙が剥き出しになり、ロイリさんと亜神が姿を現す。


「何かご用ですか?」


『そない邪険にせんとって。それより、緊急事態発生だ』


「ボクたちが、何か問題を起こしたのでしょうか?」


『いや。今回はワシは絡んでない。あんさんらが悪いなんてこともない。本当に』


 ロイリさんも、「そうなんです」とうなずく。


「前回は大変失礼しました。それで、反省も込めて、今回はチサのルートを甘めに設定したのですが……」

 なぜか、ロイリさんが亜神に目配せする。


『本来、あんさん含めてほとんどの魔王は、三層行きのチケットを手に入れてる。なのに、誰も三層に行けないという状況だ。その原因が、チサの世界で起きている。さすがに、今回のケースは見過ごせん』


「今の状況は、どうおかしいんです?」



『だって、本来さっき倒したクラーケンが、階層ボスやもん!』




 ここに来る前に倒したLOが、本来の階層ボスだったらしい。


『もういっそ、我々で事態を収束させて、あんたらには三層へ行ってもらうことも視野に入れてる。特別に』


「どうしてです?」


 亜神は口ごもる。


「まあ、罪滅ぼしですわね」


 言い辛そうにしていた亜神の代わりに、ロイリさんが答えた。


「あなた方にはご迷惑を掛けどおしですから。謝罪も含めて、今回は特例を許可しようかと」


 ロイリさんのはからいで、三層へ自動的に行けるというけれど。 


「ああ言ってるけど?」


「断る」


 チサちゃんは即答した。


 そうだよね。チサちゃんならそう言うと思っていた。


「自分の世界の後始末は、自分で付ける」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る