LO クパァ(クラーケン・パーフェクト・ファランクス)

 波が、防波堤を叩く。荒れた潮風が乱暴に、ボクたちの頬を撫で回す。


 嵐で、海が大荒れになっていた。

 魚釣りどころか、海水浴さえできなくなっているという。


「これでは、海底神殿にも行けない」


 まじめな顔で、チサちゃんは海を眺めていた。


 海底神殿は、三層へ行くルートを阻むエリアボスがいる。だが、まずは海の安全を確保しなければ。


「ダイキさん。あそこです!」


 海の向こうには、LOらしきモンスターが大暴れしている。

 遠くからでも視認できるほど、真っ黒いモンスターが、海のそこにいた。大きさ傘に長い触手、あれはクラゲか。


「吾輩はLO、クラーケン・パーフェクト・ファランクス! 通称『クパァ』!」


 また妙な名前の怪物が現れた。

 いわゆる、エチゼンクラゲ並のクラゲが、大群で押し寄せてきている。



 引き連れている子分でも、体長が二メートル近くあり、重さも一五〇キロを超えるという。リーダー格の黒いクラゲは、その三倍は大きい。まさに悪魔と言える。


「あれは食べられる?」

 もう、チサちゃんは調理の話をしていた。


「食べられるらしいよ。おいしいかは知らないけど」


 しかし、相手はLOである。食べていい物かは分からない。


「モンスターだから、食べない方がいいかも」


「そうする」

 残念そうに、チサちゃんはため息をつく。



 それにしても、海のモンスター相手は物量戦が多い。



「数の暴力に訴えかけてくるね」

「本体は一つ。あとはすべてデコイ」


 群れの中心にいる黒いクラゲが、本体のようだ。

 弱点が分かりやすくていいけど。


「じゃあ、みんないくよ!」


 ボクは海へとダイブした。

 装備に込められた魔法のおかげで、ベルガの手助けがなくても平気だ。気圧も問題ない。


 大きい。間近で見ると、本当に巨大な要塞だ。

 

「勝てるかな?」

「おいしそう」

 チサちゃんは、発言に余裕がある。


「じゃあ、やっつけて食べちゃおう!」

「賛成」


「それっ!」

 三叉戟を構え、突きを繰り出す。


「我は幽霊船相手のようにはいかんぞ!」


 ボクの突きは、子分クラゲの巨大な傘に阻まれた。


「そうか、クラゲの傘がバリアになってるんだ!」


「この絶対防御は、いくら魔王と言えど突破できぬ! くらえ!」


 反撃の触手が迫る。


 ボクは泳いで触手攻撃をすり抜けた。

 身体が軽い。熊の着ぐるみの時より、動きが素早くなっている。間違いなく、新しい装備の効果は出ていた。


 触手が岩に当たる。岩がたやすく砕け散った。


「懐に飛び込んで突く」

 チサちゃんの誘導で、傘の背後に回って突きを見舞う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る