小さなお客さん

 回転寿司のお客は、大半が大人ばかりだ。

 子ども連れもいるが、あまり食が進んでいない。

 お刺身を美味しいと思える子は、多くないようだ。


 ところが、今は違う。

 から揚げ軍艦巻きが飛ぶように売れている。


「本当だ。子どもの食いつきがシャレになってない」


「この調子で、もっと子どもが好きそうなネタを増やそう」

「うむ。考えてみる」


 その後、エィハスはコーンのバター焼きや、小さいエビフライを軍艦にのせてみた。


 客から高評価を得て、エィハスも満足げである。


 やっぱり、お客さん目線で入ってよかった。

 チサちゃんの言うとおりだな。


「すごいよエィハス。ボクなんて、レーンを動かすことばかり考えていた」


 そのせいで、子どももお寿司を食べるんだってことを、すっかり忘れていた。


「気づかせてくれて、ありがとう」



「何を言ってるんだ? 私はただ、ダイキのマネをしただけなんだ」



「ボクのマネを? どういうこと?」



「最初に、子どもでも食べられるメニューを作ろうって言い出したのは、他ならぬダイキじゃないか」


「そ、そうだっけ?」


 謙遜するボクに、エィハスはさらに言葉を続ける。


「ダイキはネウロータと料理で戦うとき、審査員が子どもだって分かったからメニューを家庭料理にしただろ? 私も見習ったんだ。ダイキがいなかったら、こんな発想には至らない」


 エィハスから、こんなにも感謝されるなんて。


 お店に、ひときわ小さいお客さんが来た。


 チサちゃんより細くて、小さいかも。一人なのかな?

 白髪のロングヘアだが、老けた印象はなかった。

 肌も白く、瞳の色が赤い。黒いドレスを着ている。

 ゴスロリ調だけど、スカートの丈がやけに短くて肌の露出が激しい。


「いらっしゃい。お席にどうぞ」


 チサちゃんの誘導で、少女は席に座る。

 チサちゃんもお客さんなのに、優しさが出たね。


「あの子、カンパチって」

 見た目は子どもみたいなのに、子どもらしくない寿司のチョイスである。



 一口食べて、少女は微笑みながらうなずく。



「おいしいですか?」



「ま、まあまあだもん!」

 ボクが声をかけると、少女はビクッとなる。

 お金を置いて、少女は出て行こうとした。



「待って」


 不審に思ったのか、チサちゃんは少女を呼び止める。


「問題点があった? 意見が欲しい」


「意見なんてないもん。すごくおいしかったもん」


 何の感情も持ち合わせないかのような顔で、少女は答えた。


「価格も庶民的で手に取りやすいし、接客も完璧だもん。最大の魅力は、このギミックだもん。申し分ないもん」


 まるでロイリさんみたいな口ぶりだなぁ。 


「でも、お兄ちゃんの方がおいしいもん」

「お兄ちゃん?」

「あんたには関係ないもん。それじゃあ」


 少女は、チサちゃんを押しのけるように去って行った。



 あの子は何者なんだ?

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