恋人たちの岬

 二度目のお風呂は軽めのシャワーだけで済ませて、ゴマトマの観光地で食事を取る。


 オソバ屋さんに到着した。川沿いに立っていて、大きな水車が回っている。


 夏野菜の天ザルをいただいた。蕎麦まで作っていたのも驚いたけど、かやくごはんまで付いている。ゴマトマは一段と、和風感が強くなってきたなぁ。ここが日本なのか異世界なのか、もう分からないや。


「おナスがサクサクです」


「えー、ぼくはいいかな」

 ネウロータくんは、ナスが苦手らしい。


「そうなの。じゃあ、イカと交換ね」

「いいよ。いただきます」


 えらく渋い食べ物が好きだね、トシコさんって。


「チサちゃんは苦手なモノは……ないか」


 我が魔王の皿は、キレイになくなっていた。デザートのあんみつを食べながら、天ザルのおかわりを待っている。


「お前ら、二層の大型LOをやっつけに行くんだろ?」

 ネウロータくんが、二層にいるボスの話を振ってきた。


 情報交換かな。


「うん。そうだけど」


「気をつけろよ。ぼくたちも正体は分からないからな」

 顔を背けながらも、ネウロータくんはボクたちを労ってくれた。


「ありがとう、ネウロータくん」


「そういう意味じゃなくて、マジで気をつけろって言ってんだよ!」

 やけに、ネウロータくんが主張してくる。


「どうしたの、ネウロータくん? 顔が怖いよ」


 トシコさんすら心配になるほど、ネウロータくんは張り詰めた表情になっていた。


「なんでもないよ。それより天ぷらが冷めるぞ」


 黙々と、ネウロータくんはソバをすすりはじめる。


 いったい、どうしたんだろう?


「そうそうダイキさん、【恋人たちの岬】には、もう行った?」


「なんです、それ?」


「海を手に入れた最初の街にある、デートスポットよ」


 夕日がキレイな岬で、夜にはハート形の灯台が灯るらしい。ラブベンチ、つまり二人並んで座れる椅子があって、そこで愛を語り合うと、両思いになれる伝説があるとか。


「ビントバーの街ですか?」

「あなたたちの世界では、そういう名前なのね」


 聞くと、街の名前は世界によって違うという。


「おそらくそこにあるわ。キレイな場所だから行ってみるといいわよ」


 トシコさんはネウロータくんと真っ先にその岬へ行き、たくさんお話をしたという。


 ポーッとした顔になりながら、チサちゃんはトシコさんの話にずっと耳を傾けている。


「素敵な場所を教えて下さって、ありがとうございます」


 これで、楽しみが一つ増えた。


「チサちゃん、行ってみようか?」


「うん。ウフフ」

 チサちゃんがモジモジしながらうなずく。

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